研究課題/領域番号 |
21H02353
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
西川 義文 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 教授 (90431395)
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研究分担者 |
渡邉 謙一 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (10761702)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 原虫 / ネオスポラ / 垂直感染 |
研究実績の概要 |
ネオスポラの宿主体内伝搬は、原虫由来の遊走因子が作用して炎症反 応と連動しながら単球系の細胞を利用することが必要である。そこで本研究ではネオスポラの垂直感 染を実行させるメカニズムの全貌を解明することを目的とした。本研究で は、マウスの垂直感染モデルを確立し、宿主側および原虫側の原虫伝搬因子の同定を行い、 垂直感染の防御方法の開発を目指している。 2022年度は以下の研究を実施した。 「子宮・胎盤領域、胎子への原虫伝搬因子(宿主由来)の探索同定」 垂直感染モデルマウスを用い、妊娠13.5日(感染10日)の胎盤組織の組織学的解析を行ったところ、ネオスポラ感染マウスの胎盤組織ではT細胞とマクロファージの集積が認められ組織炎症が確認されたため、この条件下で母マウスの脾臓と胎盤の遺伝子発現変動を解析した。非妊娠マウスへのネオスポラ感染により発現が変動する遺伝子の炎症性サイトカイン(IFN-g、TNF-a)、抗炎症性サイトカイン(IL-4、IL-10)およびケモカイン(CCL2、CCL8、CXCL9、CXCL10)に着目した。妊娠期において、脾臓では原虫感染により炎症性サイトカインTNF-aの発現が低下したが、その他の遺伝子発現の顕著な変動は認められなかった。 そこで原虫と細胞の直接的な相互作用に着目し、ウシ子宮上皮細胞(BUEC)およびウシ絨毛細胞(BT)にネオスポラを感染させ、遺伝子発現変動を解析した。BUECではプロラクチン関連タンパク質1(PRP1)、妊娠関連糖タンパク質1(PAG1)、サイトカイン(TNF-α、IL-8、IL-10)の発現が増加し、BT細胞ではIL-8の発現が増加した。IL-8は好中球走化因子としても知られており、宿主由来の原虫伝搬因子としての可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
垂直感染モデルマウスを用い、妊娠13.5日(感染10日)で母マウスの脾臓と胎盤の遺伝子発現変動を解析した。非妊娠マウスへのネオスポラ感染により発現が変動する遺伝子の炎症性サイトカイン(IFN-g、TNF-a)、抗炎症性サイトカイン(IL-4、IL-10)およびケモカイン(CCL2、CCL8、CXCL9、CXCL10)に着目した。妊娠期において、脾臓では原虫感染により炎症性サイトカインTNF-aの発現が低下したが、その他の遺伝子発現の顕著な変動は認められなかった。 そこで原虫と細胞の直接的な相互作用に着目し、ウシ子宮上皮細胞(BUEC)およびウシ絨毛細胞(BT)にネオスポラを感染させ、遺伝子発現変動を解析した。BUECではプロラクチン関連タンパク質1(PRP1)、妊娠関連糖タンパク質1(PAG1)、サイトカイン(TNF-α、IL-8、IL-10)の発現が増加し、BT細胞ではIL-8の発現が増加した。感染細胞にウシIFN-gを作用させたところ、BUECにおけるIL-8とTNF-αの発現を抑制し、BT細胞におけるIL-8の発現を抑制した。従って、ウシIFN-gは、感染後の子宮における病原性の制御と胎盤領域における炎症反応の誘導に重要な役割を果たしていることが示唆された。 IL-8は好中球走化因子としても知られており、ネオスポラの近縁原虫であるトキソプラズは好中球に感染することで宿主体内を循環することが知られている。従って、ネオスポラが好中球に感染し、宿主体内を伝搬していることの証明が必要である。2022年度に予定していた原虫伝搬因子(宿主由来)の ノックアウトマウスを用いた垂直感染モデル の実験条件にて垂直感染率を評価する実験が実施できていないため、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は以下の研究課題を実施する。 「子宮・胎盤領域、胎子への原虫伝搬因子(原虫由来)の探索同定」 原虫伝搬因子(宿主由来)の遺伝子発現に対応したプロモーター制御下でGFPを発現するプラスミドを導入したスクリーニング細胞株を樹立する。次に、ネオスポラのcDNAライブラリーあるいは原虫cDNAクローン(60種)を導入し、セルソーターによりGFP発現細胞を分離、細胞に導入されているネオスポラ分子のDNA配列を決定し、当該シグナルを活性化する候補分子を同定する。 次に申請者が近年開発した「CRISPR-Cas9によるネオスポラの遺伝子編集技術」を用いて原虫伝搬因子(原虫由来)を破壊した原虫株を作製する。原虫伝搬因子(原虫由来)のガイドRNA(sgRNA)と薬剤耐性マーカーを原虫細胞に導入して薬剤選択をすることで、破壊株の作製が可能となる。候補遺伝子が必須遺伝子の場合は、コンディショナル欠損系を検討する。樹立した破壊株は、細胞侵入能・脱出活性能、増殖率のin vitro性状解析を行い、垂直感染モデルの実験条件にて、親株原虫株の感染と比較して垂直感染率が低下することを確認する。上記一連の実験により、原虫伝搬因子(原虫由来)を同定する。
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