研究課題/領域番号 |
21H02356
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
佐々木 一昭 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10421934)
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研究分担者 |
中尾 洋一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60282696)
呰上 大吾 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80453934)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 猫 / 乳がん / オルガノイド |
研究実績の概要 |
猫の乳腺がんは、手術後のがん再発および転移率が非常に高く完治が難しいことから、新規治療法および早期診断マーカーの開発が獣医療の現場において強く求められている。本研究では、申請者が樹立した猫乳腺がんオルガノイドを用いて猫乳腺がんの詳細な悪性化制御機構を明らかにする。さらに、抗がん剤に抵抗性を示すオルガノイドと薬物動態パラメーター解析技術を用いて、抗がん剤抵抗性獲得機序を明らかにするとともに新たな治療標的を探索する。三次元培養法と薬物動態解析技術を融合的に活用することで各患者動物に最適化された新たながん治療の開発につながる研究を推進する。今年度は作製した乳がんオルガノイドでカルボプラチンやドキソルビシンの感受性試験を実施した猫の治療効果との相関を明らかにするために、予後調査を行った。オルガノイドにおいて化学療法への高感受性を示した個体では、これまでの報告に比べて、生存期間が延長する傾向がみられた。乳腺がん罹患猫由来の乳がんオルガノイド8症例と正常乳腺由来オルガノイド4症例のRNAを抽出し、次世代シークエンサーによるRNAシークエンス解析を行い、エストロジェンレセプター関連因子であるLMTK3の発現レベルが乳がんオルガノイドで上昇することが分かった。また、LC/MSを用いて乳がん罹患猫と実験猫の血清中のプロテオミクス解析を実施し、エストロジェンシグナルの代謝物が乳がん罹患猫で増加することを明らかにした。さらに、ヒト乳がん患者に使用されている分子標的薬であるラパチニブの猫における薬物動態解析を実施し、ヒトや犬に比べて、半減期が短く、最高血中濃度も低い傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に下記の実験について進捗があった。 ①猫乳腺がん進展における悪性化制御メカニズムの解明; 作製した乳がんオルガノイドでカルボプラチンやドキソルビシンの感受性試験を実施した猫の治療効果との相関を明らかにするために、予後調査を行った。オルガノイドにおいて化学療法への高感受性を示した個体では、これまでの報告に比べて、生存期間が延長する傾向がみられた。乳腺がん罹患猫由来の乳がんオルガノイド8症例と正常乳腺由来オルガノイド4症例のRNAを抽出し、次世代シークエンサーによるRNAシークエンス解析を行い、エストロジェンレセプター関連因子であるLMTK3の発現レベルが乳がんオルガノイドで上昇することが分かった。さらに、LMTK3阻害剤C28やsiRNAを乳がんオルガノイドに処置したところ、細胞の増殖、浸潤能が抑制され、アポトーシスの促進が認められた。 ②猫乳腺がん早期診断マーカーの探索と機能解析; 乳腺がん罹患猫の血清サンプルを収集し、LC/MSを用いて乳がん罹患猫と実験猫の血清中のプロテオミクス解析を実施した。エストロジェンシグナルの代謝物が乳がん罹患猫で増加することを明らかにした。 ③乳腺がん罹患猫における新規分子標的薬の薬物動態解析: ヒト乳がん患者に使用されている分子標的薬であるラパチニブの猫における薬物動態解析を実施し、ヒトや犬に比べて、半減期が短く、最高血中濃度も低い傾向が見られた。また、血漿中タンパク結合率についても犬と猫を比較したところ、違いが認められた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は主に下記の項目の実験を進める予定である。 ①猫乳腺がん進展における悪性化制御メカニズムの解明; 猫乳がんオルガノイドを用いたRNAシークエンス解析によって同定したLMTK3の機能解析を進めるとともに、ヒト乳がん細胞株や患者由来乳がんオルガノイドにおける機能についても解析を進める。また、オルガノイドの形態による違いによってLMTKの分布が変わるかについてもシングルセルRNAシークエンス解析を実施することで明らかにしていく。 ②猫乳腺がん早期診断マーカーの探索と機能解析; LC/MS解析によって同定した複数のエストロジェンシグナルの代謝物が猫乳がんの早期診断マーカーになり得るかを明らかにするために、乳がん罹患猫の血清をさらに収集するとともに、診断マーカーの感度と特異度の解析を進める。 ③乳がん罹患猫に対する新規治療薬の薬物動態解析: 安全性試験および通常投与量で血中動態解析を行ったラパチニブについては、オルガノイドで高い抑制効果を示し、投与が行われた個体から治療中の血中濃度の推移を解析するために血清を収集する。さらに、がん組織やオルガノイドにおけるHER2発現レベルや、オルガノイドにおける薬剤感受性、ラパチニブ投与による生存期間や無増悪期間の調査などを実施し、多変量解析によって、治療効果と相関する因子を明らかにしていく。
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