研究課題/領域番号 |
21H02427
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 洋平 京都大学, 薬学研究科, 講師 (90568172)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 一次繊毛 / 繊毛病 / IFT装置 / モータータンパク質 / リン酸化 / トランジションゾーン / ゲノム編集 / 膨張顕微鏡法 |
研究実績の概要 |
一次繊毛は細胞のアンテナとして機能し、その異常は多様な重篤症状を呈する繊毛病を引き起こす。一次繊毛の形成や機能維持において基盤となるのは繊毛内タンパク質輸送(intraflagellar transport: IFT)装置である。
昨年度は、IFT装置の逆行輸送モータータンパク質のダイニン-2複合体の研究を行った。ダイニン-2複合体のサブユニットであるDYNC2LI1の変異体は、他のダイニン-2サブユニット(DYNC2H1やWDR60)との相互作用が低下しており、繊毛の形成・機能に悪影響を与えることを示した。さらに、DYNC2LI1の欠損変異体とミスセンス変異体を同時に発現させ、複合ヘテロ接合体の繊毛病患者を模倣した細胞を作製し、繊毛異常を示すことを明らかにした。DYNC2LI1の変異が骨格形成不全を伴う繊毛病の原因となる分子基盤の一端が解明された(Qiu et al. (2021) Sci. Rep.)。
キナーゼCCRKはBROMIと相互作用することや別のキナーゼであるICKをリン酸化することで繊毛機能を制御している。ICKは繊毛の逆行輸送や繊毛先端部でのIFT装置の方向転換を制御している。また、ICKの変異により繊毛先端部に過剰蓄積されたIFTタンパク質が細胞外小胞として排除される。昨年度は、CCRK-KO細胞がICK-KO細胞と類似の表現型を示すことを明らかにした。CCRK-KO細胞の異常な表現型は、野生型CCRKの発現によってレスキューされたが、そのキナーゼデッド変異体やBROMI結合に欠損を持つ変異体ではレスキューされなかった。これらの結果は、CCRKがBROMIと協調してICKを活性化することによって繊毛の先端でのIFTの方向転換を制御していることを示唆している(Noguchi et al. (2021) PLoS One.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究進捗状況はコロナ禍や遠心機の故障の影響により遅れがあった。しかしながら、研究費の繰越制度を利用することで研究の遅れを無事に取り戻すことができたため、概ね順調に進展していると自己評価している。
昨年度の研究では、一次繊毛の形成や機能維持において基盤となるIFT装置とモータータンパク質のダイニン2複合体の機能解明と繊毛病発症の分子基盤解明に挑んだ。ダイニン2複合体のサブユニットであるDYNC2LI1の変異が骨格形成不全を伴う繊毛病にどのように関与しているかを解明することができた(Qiu et al. (2021) Sci. Rep.)。さらに、CCRKとBROMIの相互作用が繊毛内タンパク質輸送の方向転換の制御にどのように関与しているかも明らかにした(Noguchi et al. (2021) PLoS One.)。これらの研究成果を複数の学術誌に発表することができたことも、研究の進捗が順調であると評価する根拠である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、以下の2つを中心に進めていく予定である。 1. ダイニン-2複合体とIFT複合体の相互作用の解明: IFT複合体やダイニン-2複合体のそれぞれに関する研究は進んでいるが、ダイニン-2複合体がどのようにしてIFT複合体と相互作用して積み荷として運ばれるのかという複合体間の関係についてはまだ十分に解明されていない。この点を解明するために、これまでに私たちが開発したVIPアッセイを使った相互作用解析やCRISPR/Cas9を用いたIFTサブユニットやダイニン-2サブユニットの遺伝子のKO細胞の解析を通じて、ダイニン-2がIFT装置の積み荷として認識される分子メカニズムを明らかにする。 2. 膨張顕微鏡法を用いた繊毛構造の解析: これまでに確立したProtein-retention expansion microscopy(Pro-ExM)を用いた繊毛の超解像観察法に加えて、新たな膨張顕微鏡法であるUltrastructure ExM (U-ExM)を導入することを検討する。U-ExMは繊毛の観察に適していると考えられるため、IFT装置やトランジションゾーン(TZ)の微細構造の超解像観察に活用する。実験条件が確立できた場合には、これまでに作製したさまざまな繊毛関連遺伝子のKO細胞を利用し、野生型の細胞とKO細胞においてIFT装置やTZの構造にどのような違いがあるのかを明らかにする。この研究を通じて、繊毛の構築機構や繊毛病の発症機序に関する知見を深める。
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