研究課題
予定していたT. elongatusのChlD1, ChlD2, PD1, および、ChlD1とChlD2の同時変異を施した部位特異的遺伝子組換え体がようやく全て完成した。ChlD1とChlD2の一部の組換え体については、100コピーのゲノムのうちの一部が置換されずにかなり苦戦したが、細胞外から糖を取り込ませて解糖系でエネルギー合成させる機能を付与することによって、最終的に得ることに成功した。これらの全ての組換え体から光化学系II複合体タンパク質を精製し、P680の酸化還元電位への影響、強光照射下でのクロロフィル分解、水の酸化機能への影響などについて調べた。その結果、ChlD1の中心金属Mgのリガンドを水分子のOからアミノ酸のNに置換すると、P680の酸化還元電位が大きく低下したが、他のChlの組換え体については野生型と大きな変化は無いことが分かった。強光照射条件下では、ChlD2のリガンド変異体のクロロフィル分解が他の組換え体よりも顕著で、タンパク質分解も同様であった。一方、ChlD1リガンド組換え体、および、PD1組換え体については、光阻害を受けないことがわかった。ChlD2の光阻害について更に調べるために一重項酸素発生量を測定したところ、クロロフィル分解およびタンパク質分解の顕著であったChlD2組換え体は他の組換え体や野生型よりも3倍以上高く、これらの結果からChlD2が強光阻害防御機構に働いていることが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで、約100コピー存在するゲノムコピーの一部が組み変わらず、苦戦しながら組換え体作製を試みていたが、アプローチをいくつ変えて、ようやく予定していたT. elongatusの7つの部位特異的遺伝子組換え体が全て完成した。そして、これらの組換え体のP680の酸化還元電位、水の酸化機能、強光条件における応答に関する実験が進んでおり、論文にして報告した。順調に研究が進んでいるといえる。本研究目的とは直接関係ないが、本研究で作製した組換え体の1つが有用物質を作ることが明らかになり、特許出願の準備中である。現段階では、その内容については公表を差し控えたい。
最終年度である今年度は、これまでに得られた組換え体を使って、光化学系IIで電荷分離直前に励起されるクロロフィル分子を特定し、電荷分離の反応機構について明らかにする。そのために、研究分担者が開発した超高速分光装置を用いてフェムト秒レベルでの時間分解分光を用いる予定である。また、昨年度の研究で4つのP680クロロフィルのうちのChlD2が光阻害防御機構に関与していることが示唆されたので、この機構について、特に、光化学系IIのまだ明らかになっていない副次的電子移動経路の観点から明らかにしたい。
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