研究課題/領域番号 |
21H02448
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神田 大輔 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (80186618)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | タンパク質 / 立体構造 / NMR / 自由エネルギー直線関係 / コンシステンシー原理 |
研究実績の概要 |
蛋白質分子の2状態交換過程を溶液NMRを用いて解析すると,アミノ酸残基ごとに決定した平衡定数Kや交換速度kの値に分布があり,log k vs log Kプロットを作ると良い直線関係がある.これを残基レベルの自由エネルギー直線関係と呼ぶ。本来,独立なはずの熱力学的性質と速度論的性質の間に直線関係が存在することは偶然ではなく,蛋白質分子が構造と機能を持つために、進化の過程でアミノ酸配列として自然選択された結果である.蛋白質のランダム状態から天然状態への巻き戻りのような大きな構造変化を要する過程の自由エネルギー直線関係を立体構造形成のコンシステンシー原理の実験的な反映であると想定して研究を進めている. R3年度は27残基の生理活性ペプチドを用いて,1N-15N-NMR測定における測定バイアス(1Hおよび15N原子核の緩和速度R1, R2の残基や状態の違いに由来する)を完全に除去する方法として,HSQC0実験とΠ解析法を組み合わせが有効であることを示した.さらにα-スペクトリンのSH3ドメイン(62残基)の2状態交換について,必要なNMRデータの測定を完了した.一つのプロットを作成するためにNMR装置の総マシンタイムが1ヶ月程度必要であった. 実験と平行して,理論的な研究を進めた.コンシステンシー原理から出発することで,log k vs log Kプロットにおける2点間の傾きと,当該2残基のそれぞれのφ値(遷移状態におけるN状態の割合)の間の関係式を導き,これを満たすlog k vs log Kプロットの関係が2次関数であることを数学的に証明した.したがって,従来の直線関係は2次関数の近似であったことになる.今後,2次関数関係を応用して,従来のφ値解析に代わる新しいφ値解析を行う.本研究を通じて,蛋白質の立体構造形成やコンホメーション変化の背景にある物理化学的原理の理解を深める.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NMR測定に長時間を要するために,一つの試料について一連の測定を開始する際に,注意深い事前の予備的検討を行っている.具体的には試料の安定性のチェック,溶液のpHや温度の最適化などである.さらに,精度の高いプロットを実現するにはピークピック,ピーク体積計算などのスペクトル解析の自動化が必要と考え,fitNMR(R言語で記述)を導入してテストするなど,最終結果を急ぐ事なく,着実に研究を進める.
|
今後の研究の推進方策 |
AlphaFoldを始めとするAIによる蛋白質分子の立体構造予測の成果をどのように取り込んで行くかについて十分に検討する.
|