研究課題/領域番号 |
21H02455
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
大岩 和弘 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所, 主管研究員 (10211096)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 鞭毛・繊毛 / ダイニン / X線回折 / 試験管内機能再構築 |
研究実績の概要 |
本研究は、キイロショウジョウバエ精子鞭毛が示す双方向性の鞭毛波形成と伝播の解析を通して、真核生物鞭毛運動に普遍的に存在するメカニズムを明らかにしようとするもの。 1.軸糸のらせん対称性に起因する波形メカニズムのX線繊維回折による解明:脱膜モデルによる生理学実験と、生理学環境下で生体ダイナミクスを測定できるシンクロトロン放射光(SPring-8, BL-40-XU)によるX線回折を行った。Ca2+濃度変化に対する波形変化と呼応した基本構造周期96nmの高次層線反射強度の変化を認め、軸糸全体のらせん対称性のCa2+濃度依存性が波形転換に関連する可能性を示した。また、クラミドモナスの軸糸構造変異株とホヤ精子を解析し、らせん対称性の変化が中心小管やラジアルスポークに依存しないこと、ホヤとクラミドモナスのCa2+に対するらせん対称性変化の鏡像関係を明らかにした。これらを基に鞭毛波形形成の数理モデル化を進めた。 2.自律的振動創発の必須要素の同定とメカニズムの理解:構成生物学的研究手法によって試験管内での鞭毛運動の再現を行なった。軸糸断片を鋳型として伸長させた微小管に、クラミドモナス野生株鞭毛から得た運動活性を持つ外腕ダイニン粗抽出分画を添加、24nm構造周期を持つダイニン-微小管複合体を再構築した。ATP添加でこの複合体が滑り運動を起こし、微小管の周期的座屈現象を創発した。この運動の数理モデルを構築、ダイニンの協働性を推定したこの成果を国際誌Smallに発表した。 3.キイロショウジョウバエ精子鞭毛における屈曲波の両方向性伝播メカニズムの解析:運動性のある精子の採取方法を確立、その運動の高速カメラ撮像を可能にし、鞭毛に機械的刺激を与えるためのマニプレーターの設置を完了した。低周波数で大振幅のらせん波と、高周波数で小振幅のらせん波が重層している鞭毛波を記録し、波形パラメータを抽出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.X線繊維回折による軸糸のらせん対称性に起因する波形メカニズムの解明:シンクロトロン放射光(SPring-8, BL-40-XU)によるX線回折解析実験はほぼ完了しており、細胞モデルでの検証を進め、解析とモデルの精緻化が進んでいること。基本構造周期96nmの高次反射の層線強度プロファイルのCa2+濃度に応じた変化とらせん対称性の関連を明らかにしており、らせん対称性がダイニンの運動活性制御に関わることで鞭毛波形を変化させるとする数理モデル化が進んでいること。
2.自律的振動創発の必須要素の同定とメカニズムの理解:真核生物の繊毛や鞭毛における屈曲の伝播・切り替え機構の完全理解のために構造的制約のある3次元格子におけるダイニンの活性化・阻害を正確に把握することを進めてきた。軸糸を模した拘束力を持つ3次元システムを構築できたこと。外腕ダイニンは、微小管に沿って自己組織化して24nm周期の配列構造を作り、ATP存在下で微小管を繰り返し座屈させた。このシステムを「シントネーム」と命名し、力発生の活性化過程やスイッチングの抑制過程について研究論文を発表できたこと。
3.キイロショウジョウバエ精子観察システムの構築:内部構造と鞭毛波パターンが多種多様である昆虫の精子鞭毛、特に、長さ2ミリメートルという非常に長い鞭毛を持つキイロショウジョウバエの精子を精巣から分離し、その動きを高速度カメラで記録できたこと。精子の鞭毛波は小波(20-30Hz、波長=約30μm、振幅=6μm)に大波(振幅=60μm、周波数=2-3Hz)が重畳して構成されていることを明らかにできた。鞭毛波の二重波の性質は、9+9+2構造に関連している可能性が示すことができた。ショウジョウバエの遺伝資源と組み合わせることで、この精密な観察は、真核生物の鞭毛全般の構造-機能関係を研究するための強力な手がかりとなる可能性があること。
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今後の研究の推進方策 |
1.X線繊維回折による軸糸のらせん対称性に起因する波形メカニズムの解明:シンクロトロン放射光(SPring-8, BL-40-XU)によるX線回折解析実験はほぼ完了しており、集積したデータの解析と数理モデルの精緻化を進めて論文化を進める。らせん対称性を変化させる軸糸要素の特定のために、クラミドモナス変異株鞭毛を使った電子顕微鏡解析の実施を検討する。 2.自律的振動創発の必須要素の同定とメカニズムの理解:再構成実験に関しては、微小管束を架橋するなど境界条件を変化させた場合の挙動変化を検証する。この時に繰り返し屈曲の周波数とばね要素の弾性係数との関連から、ダイニン列の活性化不活性化のメカニズムに迫る知見を得る。 3.キイロショウジョウバエ精子観察システムの構築:キイロショウジョウバエの活性化した精子がガラス基板に吸着させない表面処理や、2㎜に及ぶ全長を3次元的にかつ高い時空間分解能で記録するための光学系の開発を行い、波形解析を深化させる。
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