研究実績の概要 |
国立長寿医療研究センター(NCGG)バイオバンクは高齢者の高品質・大規模な試料・データを保有している。その中から少なくとも1年以上フォローアップした軽度認知障害 (MCI)者のゲノムデータ、遺伝子発現データ、臨床情報のマルチオミクス統合解析からアルツハイマー病(AD)への移行に関わるリスク因子を網羅的に探索し、予測診断システムの開発を目指す。 現在報告されているAD発症リスク因子の多くが免疫に関連している。そこで本年度は、NCGGバイオバンクに保存されているAD患者317名、認知機能正常高齢者(CN)107名、MCI者432名の血中全RNAシークエンス(RNA-Seq)データを用いて、免疫細胞組成の違い、獲得免疫の抗原特異的な受容体(TCR:TRA, TRB, TRG, TRD・BCR: IGH, IGK, IGL)(レパトア)の多様性の違いに着目したバイオマーカー探索を行った。その結果、好中球、形質細胞、B細胞、 T細胞の細胞組成が認知機能低下に伴い変化すること、レパトアの多様性は高齢化に伴い減少するが、BCRは男性、TCRは性差なく顕著に減少すること、IGH、IGK、TRAの多様性が認知機能低下に伴い減少することを見出した。 病型の予測には、コックス比例ハザードモデルを応用した。学習群データのクロスバリデーションから最適なパラメータを決定し、全学習群データから判別モデルを構築した。その結果、2種のレパトア(IGK、TRA)、1種の遺伝子発現(WDR37)をバイオマーカーとして用いることで、AD移行リスクを予測できる判別モデルが得られ、検証群による解析でもこのモデルが機能することを示した。 判別精度はまだ高くはないが、免疫機能を考慮した判別モデルの有効性が示された。ゲノム情報と組み合わせた再検証、症例数を増やした再検証が今後精度を向上させるかもしれない。
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