研究課題
国立長寿医療研究センター(NCGG)には、高齢者の高品質な血液試料・ゲノムデータを保有しているバイオバンクがある。その中から少なくとも1年以上フォローアップした軽度認知障害者のゲノムデータ、遺伝子発現データ、臨床情報のマルチオミクス統合解析からアルツハイマー病(AD)への移行に関わるリスク因子を網羅的に探索し、予測診断システムの開発を目指す。現在報告されているAD発症リスク因子の多くが免疫に関連している。そのため、ADと免疫との関係を、NCGGバイオバンクのAD患者303名、認知機能正常高齢者1717人の全ゲノム配列データ解析から調べた。結果、APOEε4を持たない集団でHLA-DRB1*09:01とHLA-DQB1*03:03のアレル頻度がAD患者で有意に高いことがわかった。この両アレルは、日本人を含む東アジア人特異的に認められるアレルである。HLA-DRB1*09:01とHLA-DQB1*03:03は連鎖不平衡が強い(r2 = 0.88)。そのため、HLA-DRB1*09:01-DQB1*03:03のハプロタイプがADの発症に強く寄与している可能性が示唆された。実際、このハプロタイプはAPOEε4を持たない集団でAD発症のリスクを有意に高めていることが示された。本研究で同定されたHLAハプロタイプは、HLAクラスIIに属する。HLAクラスII分子は、細胞表面に抗原を提示し、その抗原をT細胞受容体(TCR)によって認識することで、CD4+ヘルパーT細胞への分化を促進させる。そこで、本研究で同定されたハプロタイプとTCRの多様性の関連について調べた。その結果、その関連性は示されなかったが、TCRのα鎖の多様性の低下がAD発症に関与することが新たにわかった。今後、さらに症例数を増やして検証する予定である。
2: おおむね順調に進展している
大規模な全ゲノムシークエンスデータ解析からAD移行に関わる新規バイオマーカー候補を同定することができたため。
網羅的な遺伝子発現のデータとゲノムデータ、臨床データの統合解析から、ADへの移行を予測できる最適なバイオマーカーの組み合わせを探索する。ゲノム変異と遺伝子発現の関係を示すeQTLに着目し、eQTLをバイオマーカー候補とし、AD移行予測診断システムの開発を行う。開発した予測システムは、独立した前向きコホートデータを用いてその予測能を検証する。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 21件、 招待講演 2件)
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