研究実績の概要 |
哺乳類の大脳皮質では多数の神経細胞が円柱状に集合し、カラム構造と呼ばれる脳の機能単位を形成する。さらに、多数のカラムが規則正しく配置されることで脳の機能が実現する。従って、神経細胞の集積化によるカラム形成、個々のカラムの形態制御、カラムの正確な配置は脳の発生メカニズムを考える上で非常に重要であるが、その発生機構はほとんど分かっていない。ショウジョウバエの脳の視覚中枢においては100程度の神経細胞によって1つのカラムが構成されるため、哺乳類のカラムより遙かに単純である。これまでに以下の点を明らかにした。 1. Wntリガンドが広範囲に渡って神経細胞の方向性を決定するメカニズム: Wntリガンドの受容体およびその下流で働くFz1, Fz2, Vangの単一細胞内局在を調べるため、GFPノックイン系統を作成した。 2. Ephrin/Ephシグナルによるカラムを構成する神経細胞間の反発制御: EphがEphrinのリガンドとして働くreverseシグナルによってカラム形成が制御される機構を解明するため、Ephrinの細胞内ドメインに対する抗体を作成したところ、リン酸化型および非リン酸化型Ephrinをそれぞれ特異的に認識する抗体が得られた。この抗体を用いた組織染色によって、Ephrinはカラムの中央においてリン酸化され、辺縁部においてはリン酸化されていないことが示唆された。 3. カラムの規則正しい配置を制御するメカニズム : カラムは通常6角形に配置されたタイルパターンを示すが、一部の神経細胞において細胞接着分子Ncadherinの機能を阻害すると4角形配置に変化する。カラム間の誘引・反発相互作用によってカラムの配置パターンをシミュレーションする数理モデルを構築し、神経細胞間の接着力に応じてカラムの配置が6角形から4角形に変化する現象を再現した。
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