研究課題/領域番号 |
21H02521
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
大原 裕也 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (80771956)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | エクジステロイド / DNA損傷 / 前胸腺 / ショウジョウバエ / 核内倍加 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究では、DNA損傷応答において中心的な役割を果たすATM(Ataxia Telangiectasia, Mutated)の遺伝学的解析を行い、以下の結果を得た。①ATM変異体および前胸腺選択的なATMノックダウン個体において蛹への変態が遅延し、これらの個体ではエクジステロイドの濃度が低下する。②ATM変異体においてエクジステロイド合成酵素群の遺伝子発現が低下していた一方で、前胸腺選択的なATMノックダウン個体ではneverland遺伝子(エクジステロイド合成の初発段階を担う酵素をコード)の発現が低下する。これらの結果は、ATM遺伝子はエクジステロイド産生および蛹化に必須な役割を果たすことを示しており、前胸腺に発現するATM遺伝子はneverlandを選択的に制御すると考えられる。 我々はこれまでに、DNA損傷に応答する核内タンパク質であるSu(var)2-10(a.k.a. PIAS)もまたneverland遺伝子の発現を選択的に制御することを見出しており、前胸腺におけるDNA損傷応答経路はSu(var)2-10を介してneverlandの発現を制御すると予想される。核内倍加の下流でATMを介したDNA損傷応答経路がneverland遺伝子の発現を制御するのか否か、次年度以降の研究で明らかにしていきたい。 また、上記の結果は、前胸腺以外の組織で発現するATM遺伝子もまたエクジステロイド合成に関与する可能性を示唆している。この成果を出発点として、エクジステロイド合成を制御する液性因子を産生する脳や成虫原基におけるATM等のDNA損傷応答経路の機能を明らかにすることができれば、ATMおよびDNA損傷応答経路によるホルモンネットワークの調節機構を浮き彫りにすることができると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DNA損傷応答経路の遺伝学的解析に関してはおおむね順調に研究が進行しており、上述の通り、ATMおよびH2Avが前胸腺で機能していることを強く示すデータを得ているが、以下の理由により遺伝学的解析をさらに推し進める必要がある。近年、従来の前胸腺選択的なGal4系統であるphm-Gal4より選択性の高いGal4系統・spok-Gal4が開発されたことから、このGal4系統を用いて再度ATMおよびH2Avのノックダウン実験を行う必要が出てきた。よって次年度は、これまでphm-Gal4で行ってきたノックダウン実験と同様に、ノックダウン個体の表現型解析、LC-MSによるエクジステロイドの定量、qPCRによるエクジステロイド合成酵素の遺伝子発現解析等を行う必要がある。これらの追加実験を行うため、当初より進捗状況は遅れると見込まれる。 また、RNAシーケンシング等のライブラリ調整も遅れており、その一因として前胸腺を含む内分泌組織・環状線の解剖による摘出の精度が低いことが挙げられる。次年度も引き続き解剖・サンプル回収の精度を上げるための条件検討を進め、できる限り早くシーケンシング解析に着手したい。
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今後の研究の推進方策 |
【計画1. 前胸腺におけるATMの機能解析】前年度・前々年度の研究において、DNA損傷応答において中心的な役割を果たすATMの変異体および前胸腺選択的なATMノックダウン個体において蛹への変態が遅延すること、ATMはneverland遺伝子の発現を選択的に制御する可能性を見出した。このことを確かめるために、近年開発された新たな前胸腺選択的なGal4系統であるspok-Gal4を用いてATMを前胸腺選択的に阻害した場合、neverland遺伝子の発現が低下し蛹への変態が遅延するか否か検証する。また、LC-MSを用いてATMノックダウン系統におけるエクジステロイド濃度を測定するとともに、エクジステロイドの経口投与により蛹化の遅延がレスキューされるか否かを検証する。また、ATM変異体やATMノックダウン個体の前胸腺においてリン酸化H2Avの発現が低下しているか否か免疫染色により検証する。 【計画2.核内倍加およびDNA損傷応答経路によって制御される遺伝子群の同定】核内倍加およびDNA損傷応答経路の下流で機能する遺伝子群を網羅的に解析するために、正常な前胸腺、ATMをノックダウンした前胸腺、および、Fzr(Fizzy-related)のノックダウンにより有糸分裂を継続する前胸腺を対象に、網羅的オープンクロマチン領域解析(ATAC-Seq)およびRNAシーケンシング(RNA-Seq)等を行い、核内倍加およびATM依存的にクロマチン構造がオープンとなり発現が惹起される遺伝子群を同定する。これらの解析には、前胸腺細胞が多くの割合を占める内分泌組織・環状腺を解剖により摘出・プールする必要があり、本年度前半は組織のプールとライブラリ調整を進める予定である。
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