研究課題/領域番号 |
21H02531
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
曽我部 隆彰 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 准教授 (70419894)
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研究分担者 |
長尾 耕治郎 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (40587325)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 温度走性 / 脂質制御遺伝子 / ショウジョウバエ / 行動解析 |
研究実績の概要 |
本研究ではショウジョウバエの温度受容と温度走性の制御に関わる脂質関連遺伝子を同定し、近縁種間での温度選好性の違いを感覚神経の応答性で説明しようとするものである。 1.ショウジョウバエ変異体を用いた温度走性解析から同定したいくつかの脂質代謝遺伝子について、複数の行動解析装置を用いてショウジョウバエ幼虫の詳細な温度選好性解析を行った。その結果、脂肪酸アミド水解酵素FAAHとその遺伝子との連関が報告されているTRPチャネルWater Witchの変異体について高温選好性の表現型が見られた。また、アシルグリセロールアシル転移酵素AGAT(3種)とそれらの遺伝子に関連したイオンチャネルTRPA1-CDとIonotropic receptorについて低温選好性の表現型が確認された。特に後者においては、温度選択行動アッセイにおいても明確な選好性の違いを明らかにした。また、キイロショウジョウバエ近縁種の発生や温度走性について比較する予備実験を開始した。 2.温度走性に関与する脂質関連遺伝子の候補を感覚神経のタイプ別にRNA発現解析して得られた候補の中から、エーテル脂質の合成に関わる遺伝子群に着目した。この遺伝子を神経全般、あるいはTRPA1発現神経においてノックダウンしたところ、それぞれ異なる温度選好性のシフトを観察した。エーテル脂質を持つHEK293細胞から合成能を欠損させた細胞株、あるいはエーテル脂質を持たないS2細胞に合成能を与えた細胞株を樹立し、イオンチャネルの活性に対する影響を評価した。 以上の結果は、感覚機能が膜受容体の機能に加えて膜脂質によっても制御されていることを示しており、新たな感覚機能の制御メカニズムを明らかにしつつある。上記の成果の一部について、2022年3月に東北大学で開催された第99回日本生理学会大会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.以下の2つについて、幅広い温度勾配上で詳細な温度走性解析を進めた。1)アナンダミドから不飽和脂肪酸を遊離させるFAAHと機能連関が報告されているWater Witchチャネル:それぞれの遺伝子を変異させたところ、ハエ幼虫の温度選好性が高温側にシフトした。2)不飽和脂肪酸をMAGに付加するAGAT3種:AGAT1~3のうち、AGAT2と3変異体の温度走性が涼しい温度域にシフトした。さらにAGAT2はTRPA1神経で、AGAT3はIr25a神経で発現低下することにより低温選好性を生じた。さらに、キイロショウジョウバエ(D.mel)近縁種で異なる温度選好性を持つD.sim(低温)、D.per(低温)、D.moj(高温)を入手し、飼育と基礎データの取得を開始した。いずれの種も22度で安定的に繁殖し、D.melに近い発生速度を示した。またD.simは低温を、D.mojは高温を好むことが分かった。AGAT1~3の遺伝子クラスターの構造は種ごとに異なっていた。 2. 感覚神経における脂質制御遺伝子発現解析の結果をもとに、感覚神経での機能が知られていないエーテル脂質に着目した。エーテル脂質合成遺伝子を神経全体でノックダウンすると低温選好性が、TRPA1-AB神経特異的にノックダウンすると高温選好性が観察され、神経ごとに異なる役割が示された。追加の行動解析として侵害熱の忌避行動と、幼虫の動きを自動で追跡して速度などを抽出する系を確立した。また、HEK293細胞においてエーテル合成遺伝子を欠損させ、実際にエーテル脂質が消失していることを脂質分析で確認した。この機能欠損細胞にTRPA1-AB遺伝子を発現させたところ、化学刺激に対する応答は異なったが温度応答性に違いは見られなかった。次に、S2細胞にエーテル脂質合成能を与えた安定発現株を樹立し、実際にエーテル脂質の合成が見られることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた温度走性異常を示す脂質代謝遺伝子のうち、AGAT2、AGAT3、エーテル脂質の合成酵素群に注力して解析を進める。温度受容に関わる感覚神経のうち、どのタイプにおいて機能しているのかをRNAi干渉法と温度走性解析(温度勾配、温度選択、侵害熱忌避行動)を用いて特定する。成虫の温度応答を評価する系についても立ち上げる。遺伝子欠損株のレスキュー実験や、ヒトオルソログによる機能補完実験、さらに過剰発現実験によって各遺伝子の役割を個体レベルで示す。また、各遺伝子の個体における発現パターンを精査し、機能する神経との整合性を確認する。さらに、発現神経の機能を評価するため、野生型あるいはCRISPR/Cas9で作製した全身性の機能欠損株の神経内にカルシウムレポーターを発現させて温度応答性を観察する系を立ち上げる。また、ショウジョウバエ近縁種の温度走性に関する基礎データ収集と並行して、オルソログ遺伝子のクローニングとUAS発現誘導株の作製を進める。これらの種の全身および中枢神経サンプルについて、脂質分析により膜脂質の組成について解析を進める。 AGATについては酵素活性を確認する系を立ち上げる。エーテル脂質の合成酵素についてはS2細胞に合成能を付与した安定発現株においてエーテル脂質の合成量を増加させる手段について検討し、ターゲットと考えられるいくつかのイオンチャネルの機能についてパッチクランプ法を用いて評価する。
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