研究課題/領域番号 |
21H02535
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
井手 聖 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 助教 (50534567)
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研究分担者 |
村山 泰斗 国立遺伝学研究所, 新分野創造センター, 准教授 (60531663)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 核小体 / 液-液相分離 / 試験管内再構成 / rRNA合成 / 転写 |
研究実績の概要 |
タンパク質翻訳装置リボソームを合成する場である核小体は相分離によって形成される液滴(ドロプレット)であることがわかってきている。本研究では相分離がその機能にどのように寄与するのかを明らかにするために、rRNAの転写を担う分子からなる中心層FCに着目し、精製したタンパク質UBF、rDNA、RNAを用いて、rRNAの転写活性時のFCの再構築を試みている。本年度では以下の3つの結果を得た。(i) UBF-rDNAの液滴は、RNAを添加することで、溶解し小さくなると同時に、最終的には残存した構造体は、ガラスの面に吸着せず、絶えず跳ねて浮遊し、かつ液滴同士も融合しないことから固いゲルのようなものであることがわかった。これは細胞内のFCがrRNAの転写が起こると小さくかつ核小体全体に分散することと一致する。(ii) 次にT7RNAポリメラーゼを用いて、ある条件においてUBFの液滴の中でrRNAの転写を誘導することに成功した。その結果、転写は液滴辺縁部で起こり、合成されたrRNAがそのまま辺縁部に蓄積されることがわかった。これはRNAポリメラーゼIによるrDNAの転写はFC/DFCの境界で起こるという電子顕微鏡の結果と一致し、相分離によって転写が起こる位置が決まることがわかった。(iii) UBFは試験管内において配列によらずDNAに非特異的に結合するタンパク質であると知られているが、液滴を形成すると遺伝子コーディング領域と遺伝子間領域(IGS)を識別し、コーディング領域を液滴の中心に、一方IGS領域を液滴の外縁部に分離することを見出した。実際に細胞内でのそれらの局在をFISH法によって調べると、コーディング領域はUBFと共局在し、IGSはその周りにいることを確認することできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、精製したタンパク質UBF、DNA(rDNA)、RNAを用いて、転写活性時に見られる核小体の中心層の液滴からゲルへの相転移現象を試験管内で再構築し、その物性を調べることを主眼としている。当初の予定通り、RNAを添加することで、液滴がゲル状になっていることを示すことができた。 また、特殊な条件ではあるが、偶然にもT7 RNAポリメラーゼを用いて液滴内でrRNAの転写を誘導することに成功し、細胞内でのFCと同様な形態をとることがわかった。さらに、UBFが液滴を形成することによってはじめて、DNA配列を識別し、rRNA遺伝子コーディング領域を選択的に液滴内に濃縮することが見出された。これらの結果は、試験管内のUBFの液滴が細胞内での核小体の形態を反映していることを意味し、非常に示唆に富むものである。本研究対象であるUBFの液滴を用いれば、核小体の内層の物性の理解にとどまらず、高等真核生物特有に核小体内層が出現した仕組みやその進化的な理由がわかることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまで試験管内で再構成した核小体内層の物理的性質がRNA添加時、またはrRNA合成時にどのように変化するのかを各構成因子や蛍光分子プローブについて一分子イメージング法や光褪色後蛍光回復法(FRAP)を用いてその物性の変化を定量的に解析していく。また組換えタンパク質UBFの部分タンパク質を精製することで相分離の責任領域を決定する予定である。さらに、現在まで液滴内のrRNAの転写活性は、細胞内環境と少し異なる特殊な条件でのみ検出可能であることから、この特殊性を排除し細胞内に近い環境で再現できるかを試みる。
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