研究課題
本研究では核小体の機能に液―液相分離がどのように寄与するのかを明らかにすることを目的とする。具体的には、rRNAの転写を担う分子からなる中心層FCに着目し、精製したタンパク質UBF、rDNA、RNAを用いて、rRNAの転写活性時のFCの再構築を試みている。本年度では前年度の結果を踏まえて以下に示す3つの成果を得た。(i) 細胞内でrRNAの転写は中心層FCの縁で起こる。つまり、転写の鋳型であるrDNAが中心層の縁に局在する。組換えタンパク質UBFを試験管内で相分離させ、形成した液滴にrDNAを混ぜ、その局在が再現できるかを試みた。rDNAの遺伝子コーディング領域(CDS)だけを混ぜた場合、液滴全体に均一に分布する。一方で、CDSに遺伝子間領域(IGS)を融合すると、CDSが液滴の縁にたまるようになることがわかった。IGSは相分離の作用で液滴から排除され、その外縁部に局在していた。このことから、相分離の作用を介して核小体内でrDNA領域の空間配置が決定されることが明らかになった。(ii) rRNAの転写が起こる中心層FCは、核小体内で小さく分散して局在する。液滴であるにもかかわらず近接しても融合しない。この現象を説明するため、前年度までにrRNAの存在下では液滴UBFが相転移しゲル状態になっていることが示唆されていた。そこで今年度では分子のダイナミクスを指標に検証した。蛍光分子プローブについて一分子イメージング法や光褪色後蛍光回復法(FRAP)を用いて調べたところ、予想通りrRNAを添加すると液滴内の分子のダイナミクスは下がることを見出した。(iii) 組換えタンパク質UBFは試験管で液滴を形成する。天然変性領域を欠損させた部分タンパク質を精製することで、UBFアミノ酸配列内での責任領域を相分離の責任領域を同定した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、精製したタンパク質UBF、DNA(rDNA)、RNAを用いて、転写活性時に見られる核小体の中心層の液滴からゲルへの相転移現象を試験管内で再構築し、その物性を調べることを主眼としている。当初の予定通り、RNAを添加することで、液滴がゲル状になっていることを一分子イメージング法や光褪色後蛍光回復法(FRAP)を用いた分子レベルの解析により示した。また、組換えタンパク質UBFのN末端の二量体化に必須な領域とC末端の天然変性領域が試験管内での相分離と細胞内でのFCへの局在に重要であることがわかった。予想外の結果として、液滴内でのrDNAの局在を調べる過程で、遺伝子間領域(IGS)が相分離の作用により液滴から排除されるため、それに引っ張られる形で遺伝子コーディング領域(CDS)が液滴の縁に局在することが明らかとなった。本研究対象である液滴UBFを用いた実験を通して、核小体の物性の理解が進むと共に、次々と予想外な相分離と相転移による構造体形成メカニズムが判明しつつある。
今後は、RNAを分解することでUBFのゲルから液滴への相転移を誘導し、その可逆性を検証する。また、UBFが相分離した時、液滴内のUBFの分子濃度を計測する。そのために観察対象の屈折率および質量濃度を定量的にマッピングする微分干渉顕微鏡Orientation Independent DIC (OI-DIC)を用いる。この顕微鏡を開発した米国ウッズホール海洋生物学研究所(MBL)のMichael Shribak博士と共同研究を行う予定である。また最近報告されたヒト疾患の原因として同定された変異型UBFを精製し、相分離能を検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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