研究課題/領域番号 |
21H02536
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
牧野 能士 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (20443442)
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研究分担者 |
熊野 岳 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (80372605)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 再生 |
研究実績の概要 |
多くの動物は損傷を受けた組織や器官を再生する能力を持つ。再生能力が高い種において再生に関与する遺伝子群が明らかになりつつあるが、種によって再生能力が大きく異なる背景にある分子基盤や、こうした違いに繋がる進化過程はよく分かっていない。我々は、胴体を再生できる種を高再生能力種、胴体を再生できない節足動物、線形動物、脊椎動物を低再生能力種と定義し、比較ゲノム解析により高再生能力種に特異的な遺伝子の探索を行った。その結果、高再生能力種のみで保存されている極めて稀な進化パターンを示す遺伝子HRJDを発見した。ほとんどの節足動物はHRJDを持っていないが、鋏角類のサソリやウミグモのゲノム中にはHRJDが存在することを見出した。そこで、HRJDを有する鋏角類を対象に再生過程の調査を実施した。 石垣島産ヤエヤマサソリの再生能力について調査するため、1齢幼体の後腹部を切断し、再生課程の観察を行った。切断部に再生芽様の組織が形成されることを確認した。その後、再生芽様の組織はやがてメラニン化し、サソリの殻の内側に後腹部が形成されていた。そして、脱皮をして2齢幼体へなる際に後腹部が再生するのを確認した。しかし、切断された200個体のヤエヤマサソリのうち、切断後6~8週間で後腹部が再生した個体は少なく、多くのサソリは正常に脱皮することができず脱皮の途中で死亡していた。ヤエヤマサソリは後腹部を再生する能力を有するものの、その切断は大きな負担であることが明らかとなった。 再生過程において発現が変動する遺伝子群を調査するため、後腹部を切断したヤエヤマサソリからRNAを抽出してRNA-Seqを実施した。その結果、切断3時間後のサンプルでは脱皮ホルモン関連経路の遺伝子群の発現量が増加し、クチクラや殻の維持経路に関連する遺伝子群の発現量が減少していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヤエヤマサソリの後腹部の再生過程を調査するためには、再生した多くの個体を必要とするが、後腹部が再生する割合が非常に低く、実験に必要な個体の確保が容易ではない。また、ウミグモの胴体が再生することが確認できたものの、再生には数ヶ月間の時間を要することが分かった。これはウミグモの成体を用いていることが原因であると考え、ウミグモの幼体の再生過程を観察することに取り組んだ。卵塊を抱えたウミグモから卵を採集し16℃の人工海水で飼育したところ孵化したが、幼体は成長せずに全て死亡した。これは適切な餌を提供できなかったためだと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ヤエヤマサソリの後腹部を切断すると後腹部が再生するが、脱皮に失敗して死亡する個体が多い。そのため、脱皮が失敗せずに再生が成功する確率を高める条件の検討を行う。 ウミグモの成体の再生過程の観察には時間がかかるため、ウミグモ幼体の宿主を探索し、幼体の再生過程を観察する系の確立に取り組む。 これまでに我々の研究グループは、比較ゲノム解析により再生に関わるHRJD遺伝子を見出した。用いる生物種を精査して、同様なアプローチで新規の再生関連遺伝子の探索に取り組む。
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