研究課題/領域番号 |
21H02547
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
寺井 洋平 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (30432016)
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研究分担者 |
仮屋園 志帆 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員 (00815334)
荒川 那海 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員 (90844754)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 地衣類 / 共生 / バクテリア / オミクス解析 / 代謝ネットワーク |
研究実績の概要 |
サンゴや地衣類は共生する藻類から光合成産物を供給されて生育する2者の共生体だと長い間考えられてきた。しかし近年、これらに第三の構成員が存在することが明らかになってきが、その役割は不明であった。私たちは地衣類のハコネサルオガセの共生菌、共生藻、バクテリアから地衣体を再合成する系を用いて、バクテリアが地衣類の共生に必要であること発見した。また地衣類のイオウゴケが硫化水素依存的に生育し、硫化水素代謝に必要な遺伝子を持つ好酸性バクテリアが第三の構成員であることを明らかにした。地衣類の共生において構成員の関係は代謝物の提供と受け取りである。そのため、「代謝ネットワーク」を調べれば共生での役割を明らかにできる。そこで本研究では地衣類、ハコネサルオガセとイオウゴケを用いて各種オミクス解析を行い、構成員間の代謝ネットワークと、それぞれの第三の構成員の役割を解明することを目的とする。 本年度は、これまでアッセンブルがあまりよくなかったイオウゴケの共生バクテリアのゲノムのアッセンブルを再度行い、改訂版のゲノムを構築した。次にこのゲノムに存在する遺伝子から硫化水素代謝の経路を推定し、その推定に基づいて、イオウゴケ内部の硫黄代謝物を予想した。これら遺伝子と代謝物からたてた硫化水素代謝の経路の仮説が正しいかを調べるために、イオウゴケの硫化物のメタボローム解析を行なった。イオウゴケは現地で採集直後にドライアイスで凍結し、そのまま解析に用いた。解析の結果、遺伝子から予想した硫黄代謝物が実際にイオウゴケ内に豊富に存在し、また比較のための周囲の土壌に硫黄代謝物が存在しないことも確認した。これらのことから、三者共生体内での硫化水素経路が解明されてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は1) イオウゴケの共生バックテリアのゲノムアッセンブルの改訂版を作成し、そこから硫化水素の代謝経路を予測したこと、2) 実際にイオウゴケの硫黄代謝物のメタボローム解析を行い、予想した代謝経路を支持する硫黄代謝物がイオウゴケ内に存在することを確認したこと、3) これらのことからイオウゴケが硫化水素を用いて化学合成している可能性が高いことを示すことができたことが高く評価できる。 しかし、トランスクリプトームとプロテオームのためのサンプリングが、研究代表者が新型コロナウイルスに罹患したため延期になったことは進捗に影響した。11月の罹患により、サンプル採集を延期したが採集地の登別が12月から雪で交通規制がされてしまうため、年度をまたいでの延期となってしまった。以上のことを考慮すると研究は順調に進捗しているが、サンプル採集とそれに続くトランスクリプトームとプロテオームが延期になったため、概ね順調に進んでいると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、イオウゴケの採集を行い、トランスクリプトームとプロテオーム解析を行う予定である。これらの解析により、代謝経路と硫黄酸化物のプロテオームから予測した硫化水素代謝経路をさらに明らかにできると期待している。また、菌類と藻類のゲノムを詳細に解析することにより、硫化水素代謝の経路の獲得が共生体の構成員のゲノムどのように影響を与えたかを明らかにできる。ハコネサルオガセについては共生体にバクテリアがいる場合と、いない場合で再合成株の形質に違いがあることが見出されたので、これらを数値化し有意に再合成株が異なることを起きらかにする。また、この形質の違いがどのような遺伝子発現の変化、タンパク質量の変化、代謝物の量の変化により怒るかを調べるため、各種オミクス解析を続ける予定でさる。
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