研究課題
ともにロコモーションにおける働きを変えて来た。魚類では側屈運動、哺乳類では前後屈運動が推進力を産生したが、二足歩行では回旋が推進に寄与するようになった。劇的な背景を持つ体幹であるが、その詳細についての知見は限られている。従来の分析が体幹を一つの剛体と見なすモデルに基づいていたのが一因である。実際には、肩甲骨は胸郭に対して大きく動くし、胸郭も剛体ではない。これらの動きや変形がロコモーションに果たす役割は、ほとんどわかっていない。ヒトの動きには、二足歩行に特有な要素と、系統的な要素の両方が含まれ、それらの区別を明確にするには霊長類を用いた比較研究が不可欠である。本研究では、ヒトと非ヒト霊長類の歩行時における体幹各部の動きと、その協調から成る全体としての動き(変形)の分析を継続している。また、体幹を構成する肩甲骨、椎骨、骨盤についての、幾何学的形態計測法を用いた分析を加えることで、体幹が姿勢制御・衝撃吸収・推進力産生に果たす役割と、その進化的背景を調べている。これまでに、胸郭と骨盤の反対回旋は、従来信じられていたようにヒト科特有の運動というわけではなく、ニホンザルが二足歩行を行う際にも見られること、ただし、ニホンザルでは骨盤の回旋が大きいため空間内では胸郭も骨盤と同方向に回旋しているように見えることが明らかになった。また、その回旋は腰部ではなく主に下部胸椎で生じることなどが判明した。2023年度は、胸腰椎の形態分析に重点を置き、ヒト上科、オナガザル科、オマキザル科の全胸腰椎における形態変異パターンについて、幾何学的形態計測法による解析を行った。胸腰椎606個のそれぞれに各44個のランドマークを設定した分析から、四足歩行や走行には胸椎と腰椎の顕著な機能分化が重要であり、一方、ぶら下がりや二足立位で体幹を立てる姿勢を多くとる種では、胸椎と腰椎の形状差が比較的少ないことが示唆された。
3: やや遅れている
実験に使用していたニホンザル個体の1頭が、2023年度中に突然死したため、実験が滞っている。新たな個体を入手し、馴化・訓練を行っているが、データ収集の遅れは避けられない。
実験的運動解析、および標本を用いた形態学的解析を継続する。実験的運動解析のうち、ヒト被験者を用いた研究については、東京大と京都大で計測を行う。被験者がトレッドミル上を歩く際の体幹の動きを、光学式三次元位置計測装置を用いて計測する。前者については、体幹の解剖学的標識点と、体幹背側に5-10cm間隔の格子状に配置した準標識点の3D座標を計測し、座標値と速度値を用いた主成分分析を行う。ニホンザルを用いた実験的研究は、京都大で飼養する被験体を用いて行う。非ヒト霊長類標本を用いた形態学的解析では、霊長類の体幹を構成する骨標本(肩甲骨、鎖骨、椎骨、骨盤)を3Dモデル化し、幾何学的形態計測と有限要素法による分析を継続する。得られた結果から、骨や関節形状とポジショナル行動の関係を再検討する。年度後半には、運動解析および体幹各部の骨標本から得られた知見を統合し、体幹がロコモーションに果たす役割について考察する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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