研究課題
アルツハイマー病(AD)の特徴的な病理学的所見は、それぞれAβとタウから構成される2種類のアミロイド蓄積である。これらのアミロイドの形成と蓄積がAD発症の原因であると考えられていることから、Aβおよびタウの凝集抑制あるいはそのクリアランス促進がADの根本的治療に繋がると考えられている。そこでAD治療を目指して、これまでにアミロイドに対して光酸素化触媒と光刺激による人工的な酸素原子付加を検討してきたところ、酸素化AβはAβ凝集阻害能をもち、脳内においてはクリアランスされやすい可能性を見出した。本研究ではその可能性のさらなる検証とメカニズムを明らかにすることを目的としている。昨年度までに、酸素化によってタウのクリアランスが亢進することを明らかにした。またそれを検証可能な培養細胞モデルの構築にも成功した。そこで本年度はこの培養細胞モデルを用いて、クリアランス効果と触媒濃度および光照射量の関係を検討した。その結果、クリアランス効果は触媒濃度依存性および光照射量依存性があることを見出し、約50%のクリアランス効果を発揮するために必要な触媒量・光照射量を算出することができた。このことからクリアランス亢進効果は酸素化率に依存する可能性が強く示唆され、今後、効果的な酸素化率の算出を含めさらに検討を行いたい。さらに、タウ酸素化のために開発された触媒の汎用性を検討した。本触媒はアミロイドに共通する構造であるクロスβシート構造を認識して機能する。そこで、同じようにアミロイドを形成するAβやα-シヌクレインにも着目し、その酸素化を検証した。その結果、当該触媒は酸素化効率に若干差はあるものの、Aβやα-シヌクレインも酸素化可能であることが明らかになった。このことは、本触媒が様々なアミロイド疾患に対して適用できる可能性を示唆している。今後、その効果についても検証していきたい。
2: おおむね順調に進展している
酸素化によるクリアランス亢進効果を検証可能な培養細胞モデルを構築することができたことで、その詳細な検討が可能になった。本モデルを用いて、触媒濃度依存性および光照射量依存性を明らかにできたことは、その効果発揮には酸素化率が重要であることを強く示唆するものであり有用な所見となった。今後、実用化に向けての研究も加速できると考えられ、順調に進展していると考えている。
本年度の研究結果から効果的な触媒濃度や光照射量が見出されたことから、この条件下での酸素化率の評価を進めると共に、生体内においてこの条件を達成するための方法論も検討していきたい。具体的には触媒脳移行性を上げるためのDDSの構築や、脳内に光を届けるためのデバイスの開発などである。また、酸素化に対する触媒の汎用性が示されたことから、その効果についても検討していきたい。さらに、酸素化効果発揮のためのメカニズム解明も引き続き行っていく。酸素化によって脳内でどの細胞がどのように応答しているかという生体内応答を網羅的に明らかにするために、scRNAseq解析も行いたい。
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