研究課題
近年、臓器間質の線維芽細胞が多彩な役割を担うことが示されており、間質線維芽細胞は臓器構造を支持するだけという認識は改められつつある。本研究では、マウスの腎臓を対象として、間質線維芽細胞の単一細胞レベルでの網羅的遺伝子発現解析(single-cell RNA-sequencing: SC-RNA-seq)を行い、その多様性を実証することを目標としている。また、慢性腎臓病などの病態における各線維芽細胞分画の関与を明らかにするために、マウスモデルを用いた解析に取り組んだ。まず、独自開発した手法を用いて、マウス腎間質線維芽細胞を安定的に単離し、SC-RNA-seqを行った。得られたデータを解析したところ、赤血球造血因子エリスロポエチンの産生能や細胞周期関連遺伝子発現レベルの異なる細胞集団が少なくとも2つ存在することを見出した。次に、腎障害を誘導したマウスから腎間質線維芽細胞を単離し、同様にSC-RNA-seqを行ったところ、腎障害によって線維芽細胞が筋線維芽細胞に形質転換することが確認された。筋線維芽細胞においても細胞外基質産生や炎症応答において、明らかに性質の異なる細胞集団が少なくとも2つ存在することが示された。さらに、SC-RNA-seqのデータを統合し、数理解析に供したところ、線維芽細胞および筋線維芽細胞の各亜集団の細胞分化における関連性を示すことができた。今後、腎間質線維芽細胞の遺伝子発現様式の解析を進め、全身の生体調節機構における多様な役割と各亜集団の役割分担を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
当初予定通りに、マウス腎間質線維芽細胞のSC-RNA-seqが完了し、赤血球造血因子エリスロポエチンの産生能や細胞周期関連遺伝子発現レベルの異なる細胞集団が少なくとも2つ存在することを見出した。また、腎障害を誘導したマウスからも腎間質線維芽細胞(筋線維芽細胞に形質転換している)を単離し、SC-RNA-seqを完了させた。さらに、SC-RNA-seqのデータを統合し、腎臓における間質線維芽細胞および筋線維芽細胞の各亜集団の細胞分化における相関関係を示すことに成功した。
これまでに得たSC-RNA-seqのデータを詳細に解析し、腎間質線維芽細胞が発現する分泌因子、受容体、細胞接着分子を同定する。同定した因子は環境変化に応じて発現量が変動する可能性があるので、貧血、低血圧、高血糖、高脂血症などのマウスモデルを用いて発現様式の変化を明らかにする。また、新たに発見した腎間質線維芽細胞の機能について、本研究で同定した腎間質線維芽細胞の分類との関係を調べ、役割分担を明らかにする。腎間質線維芽細胞の発生分化系譜を明らかにするために、腎臓発生における間質線維芽細胞の性状解析を行う。胎生期および出生直後のマウス腎臓を用いて、これまでに同定した腎間質線維芽細胞亜集団のマーカー遺伝子の発現をin situ hybridization法などによって組織レベルで検出する。また、胎生期の神経系組織に存在するエリスロポエチン産生細胞が腎間質線維芽細胞の起源となる可能性を見出しているので、マウス胎仔のエリスロポエチン産生細胞の追跡実験を行う。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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