研究課題/領域番号 |
21H02712
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
佐藤 卓 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (40375259)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 皮膚エリテマトーデス / インターフェロン / マクロファージ / インタラクトーム |
研究実績の概要 |
皮膚エリテマトーデス(CLE)は、免疫系が健常な皮膚組織を攻撃することで、痛み、かゆみ、皮膚の瘢痕化や萎縮、脱毛など多様な病変を生じる慢性の自己免疫疾患である。同疾患の脱毛症は、免疫系が毛包幹細胞を破壊することが原因で発症すると考えられているが、その発症原因としての、毛包幹細胞-ニッチ細胞間相互作用の異常については明らかではない。本年度の研究では、これまでにCLEマウスモデルの解析から見出した、IFNの作用依存的に皮膚病態形成に関わるマクロファージ集団の詳細な解析を実施した。その上で、同マクロファージ由来の分泌蛋白が毛包幹細胞に直接作用する可能性を想定し、取得済みの毛包幹細胞の遺伝子発現データとこれらマクロファージの遺伝子発現データから、2者間のインタラクトーム(マクロファージ由来分泌蛋白―毛包幹細胞の受容体間相互作用)を網羅的に解析した。インタラクトーム 解析から得られた結果をもとに、当該マクロファージが発現する特定の分泌因子とその受容体に着目し、各々の分子を欠損するCLEマウスモデルを樹立した。その結果、リガンド分子の欠損では皮膚病態が改善しなかったが、受容体の欠損により、皮膚病態、特に脱毛が改善することがわかった。同受容体は、複数のリガンド分子と会合数するため、現在、リガンドを特定するため他のリガンド欠損マウスの樹立を進めている。また、皮膚において非感染性にインターフェロン生産が亢進するいくつかの疾患について、同様のマクロファージが病変局所に分布するかを、in situ hybridizationにより検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、マクロファージー毛包幹細胞間の直接の相互作用について主に検討した。CLEモデルマウスと当該分子のノックアウトマウスの交配が予定よりスムーズに進み、年度内に皮膚病変形成における同分子の解析まで完了することができた。この結果から、IFNシグナルの亢進によって引き起こされる毛包の成長抑制に関わる分子経路が特定された。また上記の通り、すでに脱毛に関わるマクロファージ由来リガンドの特定のためマウスの交配を進めており、当該マウスも概ね作製が終了している。また、ヒト検体の解析(in situ hybridization)についても、共同研究により様々な皮膚自己免疫、自己炎症疾患について実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究において、病態形成マクロファージー毛包幹細胞間の直接の相互作用に関わる分子経路の特定に至った。来年度は、この過程に関わるリガンド分子を特定する。一方、同分子経路を欠損したマウス(受容体欠損CLEモデルマウス)では皮膚の繊維化はほとんど回復しなかったことから、当該経路は、毛包の成長を阻害するものの、皮膚繊維化の誘導にはほとんど関わっていないと考えられる。また、毛包成長阻害は、皮膚繊維化の直接の原因ではないといえる。 本研究に用いるCLEモデルマウスは、IFN受容体を欠損することで全ての皮膚病態が完全に回復する。したがって、当該マウスの皮膚病変形成に関わるIFNの作用点を明らかにすることで、IFNシグナル過剰が皮膚病態を形成する細胞・分子基盤に迫れると考えられる。そこで、これまでにマクロファージ特異的、または神経特異的にIFN受容体を欠損するCLEモデルマウスの作製を進めており、来年度は、まずこれらのマウスで皮膚病態の改善が認められるかを検証する。仮にマクロファージがIFNの重要な作用点だった場合(つまり、皮膚病態が改善した場合)には、マクロファージ特異的IFN受容体欠損CLEモデルマウスの皮膚マクロファージについて網羅的遺伝子発現解析を実施し、すでに取得済みのCLEモデルマウスのマクロファージのデータと比較する。これにより、IFNシグナルの下流においてマクロファージで活性化する皮膚病態誘導に重要な分子が特定できると考えられる。
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