研究課題/領域番号 |
21H02741
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
定岡 知彦 神戸大学, 医学研究科, 助教 (00435893)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 水痘帯状疱疹ウイルス / 潜伏感染 / 再活性化 |
研究実績の概要 |
水痘帯状疱疹ウイルスが潜伏感染において発現する遺伝子であるVLT(水痘帯状疱疹ウイルス潜伏感染遺伝子:varicella-zoster virus latency-associated transcript)は、病原性発揮の感染相である溶解感染相においても発現する。潜伏感染相において発現するVLTと、溶解感染相において発現するVLTは、RNAとしては異なるプロモーターにより制御され、そのエクソンの構成は異なるが、このRNAから翻訳されるタンパクは同一である。そこで、このRNAは発現するがタンパクを発現しない遺伝子組換えウイルスを作製し、溶解感染相におけるこのVLTがコードするタンパクの機能を探索した。 遺伝子組換えウイルスの作製方法として、すでに確立している大腸菌内での遺伝子組換え法を駆使したBAC法と、新たに感染細胞内で行うCRISPR/Cas9法を確立し、さらに水痘帯状疱疹ウイルスの異なるウイルス株において実施した。いずれの方法で作製された組換えウイルスも、また異なるウイルス株であっても、VLTから産生されるウイルスタンパクは、ヒト上皮細胞でのウイルス増殖に必須ではないものの、明らかにその感染拡大が野生型ウイルスに比べて減弱していた。すなわちVLTがコードするウイルスタンパクは、水痘帯状疱疹ウイルスの効率的な感染拡大に必要であることが明らかとなった。 VLTは潜伏感染相においてはRNAとして機能し、潜伏感染相から再活性化への切り替えにおいては、タンパクが機能することが示唆されており、この潜伏感染から再活性化への切り替えに機能するウイルスタンパクが、溶解感染相においても機能することを明らかにしたことは、今後の再活性化への切り替え機構の解析に有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の本年度研究計画では、野生型ウイルスが潜伏感染したヒトiPS細胞由来知覚神経細胞において、潜伏感染から再活性化までの継時的なサンプル回収により、RNA発現状態を確認したのち、高感度クロマチン沈降法を行う予定であったが、当初の想定以上に潜伏感染細胞数が少ないことが判明した。また継時的に回収した複数サンプルに関して、再活性化の指標としてRNA発現を確認することは手間とコストがかかりすぎることも明らかとなった。これらの問題をまずは解決するために、感染方法の改良と、ウイルスの遺伝子改変を試みた結果、感染方法を改良することで充分量の潜伏感染細胞を得られた。また現在、より簡便にウイルス再活性化動態を観察できるウイルス遺伝子改変を試みており、順調に進展している。さらにヒトiPS細胞由来知覚神経細胞への分化時間が、7週間から8週間必要であったプロトコールを現在改変し、1週間から2週間程度で分化可能となり、こちらのプロトコールを採用することで研究進展の大きな律速要因を改善することが期待できる。 当初の研究計画では後半に行う予定であった、標的遺伝子がコードするタンパクを発現しない遺伝子組換えウイルスの作製を完了し、この標的ウイルスタンパクが病原性発揮の感染相である、溶解感染においてウイルス感染拡大に重要であることを見出し、論文として発表した。 以上より、当初の研究計画通りに行かない問題点を発見したが、改良済みあるいは改良中であり、また研究計画を進展させる研究結果を論文として発表したことより、おおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画で初年度から開始する予定であった、潜伏感染状態から再活性化までのウイルスエピゲノム状態の変化を検索する。分化プロトコールを改変したヒトiPS細胞由来知覚神経細胞と、新たな感染方法を組み合わせ、まず野生型ウイルスを用いて潜伏感染状態を得られることを確認する。ついで、現在作製中の遺伝子組換えウイルスを用いて同様の確認を行う。 潜伏感染状態が確認されたのち、遺伝子組換えウイルスを用いた潜伏感染状態が、野生型の潜伏感染、さらにヒト遺体由来三叉神経節神経細胞での潜伏感染と同様であるかの確認実験を、核酸濃縮法を組み合わせたRNA-seqにより確認する。 以上が確認されたのち、ヒトiPS細胞由来知覚神経細胞で潜伏感染状態を獲得した遺伝子組換え水痘帯状疱疹ウイルスのエピゲノム状態を明らかにする。 明らかとなった潜伏感染時のエピゲノム状態を元に、潜伏感染から再活性化の鍵となるウイルス遺伝子転写産物VLTを転写できない遺伝子組換えウイルス作製を試みる。またVLTがコードするタンパクを発現しない遺伝子組換えウイルスはすでに作製完了しており、こちらの遺伝子組換えウイルスにも現在作製中のウイルス感染動態を可視化させる遺伝子改変を施し、再活性化における機能を探索する。
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