研究実績の概要 |
ウイルス様中空粒子(virus-like particle: VLP)を用いた研究から、ヒトノロウイルスGII.3のカプシドタンパク質VP1にトリプシン切断配列が存在するとの報告があった(Zhang et al, Arch Virol, 2019)。そのため、GII.3は感染性を発揮するために胆汁酸以外の消化管内因子も必要とする可能性が示されていたが、感染性ウイルスを用いた研究はこれまで行われていなかった。そこで我々はトリプシンによるGII.3感染活性化を調べるため、VP1切断に必要なトリプシン有効濃度を予備検討において調べていたことから、本研究ではその知見をもとに進めた。 GII.3陽性糞便検体を10%懸濁液(w/w, in PBS)とし、その遠心上清を多段的にフィルター濾過して、最終的に0.2 μmフィルターを通したものを接種ウイルスとした。HIOへの感染性が有る、あるいは無いGII.3検体を準備し、それぞれにトリプシンを加えて37℃で2時間保温した。その後にトリプシン処理GII.3をそれぞれ腸管オルガノイドに感染させ、24時間後の細胞および培地からRNAを抽出して、リアルタイムPCRにてウイルス量を評価した。 その結果、残念ながらトリプシン消化による感染性の改善は見られなかった。検体量に限りがあることから今回は解析できなかったが、トリプシン処理有無におけるGII.3 VP1の分子量をウェスタンブロットにより確認する予定である。なおGII.3は粒子構造が環境により変化することが示されており、その変化による感染性への影響が示唆されている(Song et al, PLoS Pathog, 2020)。そのため、すでに感染性が確認されているGII.3を陽性コントロールとして用いたが、感染性活性化にはトリプシンだけでなく他の因子も必要である可能性が示唆された。
|