研究実績の概要 |
ウイルス中空粒子(virus-like particle: VLP)のクライオ電子顕微鏡による構造解析の結果、ヒトノロウイルス(human norovirus: HuNoV)は環境に応じて粒子構造が変化し、それにより感染型・非感染型の相互切り替わりが示唆された(Song et al, PLoS Pathog, 2020)。この結果を受け、HuNoVが経口にて侵入した際に何かしらの処理を受けると予想し、胃酸によるpHが重要な因子となる可能性を考えた。そこで本年度は、人工胃酸によるHuNoV感染性への影響を解析した。人工胃酸(pH 1)もしくはコントロール溶液(塩のみ)を1:1となるようにウイルス溶液へ添加し、37℃で1時間保温した。その後に超遠心分離でウイルスを回収し、ヒト腸管オルガノイドに感染させた。その後72時間後に細胞と培地からRNAを抽出してリアルタイムPCRでウイルス量を評価した。その結果、コントロール溶液処理サンプルではウイルス増殖が認められたが、人工胃酸処理サンプルでは認められなかった。目視による細胞死は観察されなかったことから、胃酸によりウイルスが損傷したことが考えられた。そのため人工胃酸の原液に加え、100倍および10,000倍希釈したものをウイルス溶液と混合したところ、10,000倍希釈液処理サンプルではウイルス増殖が認められたが、100倍希釈液処理サンプルでは認められなかった。本研究では不純物をほぼ含まない溶液中での反応であったことから、実際の胃の中を模した系が必要になると考えられた。 HIO移植マウスへの感染実験に向けた準備として、本年度はウイルス接種および採便の手技をC57BLを用いて確認した。
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