研究課題/領域番号 |
21H02744
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹田 誠 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (40311401)
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研究分担者 |
關 文緒 国立感染症研究所, ウイルス第三部, 主任研究官 (20443111)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ウイルス / 感染症 / 種間伝播 / モルビリウイルス / 受容体 / SLAM |
研究実績の概要 |
様々な哺乳動物(ヒト、イヌ、アザラシ、イルカ、コウモリ、ネコ、ブタなど)に感染するモルビルウイルスが知られている。一部のモルビルウイルスは、感染宿主に対して致命的な疾患を引き起こすことがあり、その影響は個体や集団レベルで大きな問題となることがある。そのためモルビリウイルスは、現在の生物学や医学において重要な研究対象となっている。 近年では、特に注目すべき事例として、イヌジステンパーウイルスによるサルの致死的なアウトブレイクが報告されている。このような事例は、モルビルウイルスが様々な種にわたって拡散し、新たな宿主に適応する可能性を示唆している。モルビルウイルスは、共通して免疫細胞上の分子SLAMを受容体として利用することが知られている。そこでわれわれは、このようなモルビルウイルスの種間伝播のリスクを評価するために、まずは、各種モルビルイルスの様々な動物SLAMの利用能力を詳細に解析した。 実験の結果、麻疹ウイルスを含む多くのモルビルウイルスが、多様な動物種のSLAMを利用できることが明らかになった。これは、モルビルウイルスが種を超えて広範囲な宿主に感染する基盤となっていると考えられる。一方、ヒトSLAMを利用できるのは麻疹ウイルスだけであることが確認された。しかしながら、モルビルウイルスが他の動物種のSLAMを利用できる能力を獲得することは、比較的少数のアミノ酸変異で生じることが示された。 この研究結果は、受容体であるSLAM利用能の観点からは、モルビルウイルスが様々な動物種間で容易に伝播し、新たな宿主に適応する可能性があることを示唆しており、新たな種間伝播や流行のリスクになっていると考えられる。したがって、モルビルウイルスの動物間伝播のメカニズムや宿主適応の詳細な解明が、重要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
受容体利用能に関する解析は計画通り順調に進展している。一方、動物種毎の宿主免疫応答の違いがモルビリウイルスの宿主域の決定にどのように関与しているかに関する実験に関しては期待通りには進展できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
細胞はウイルス感染を感知するためのRNAセンサー分子を持ち、それによって自然免疫応答を惹起してウイルス感染と対抗する。モルビリウイルスの感染を感知するセンサーとしてRIG-IやMDA-5が知られているが、モルビリウイルスは、ウイルスがコードしているVタンパクやCタンパクなどのアクセサリータンパク質によって、これらの自然免疫応答に対応する。この自然免疫応答とそれに対抗するウイルスタンパク(Vタンパク、Cタンパク)の種間の差が、モルビリウイルスの宿主域決定にどのように関与するかを明らかにするための実験を計画する。各種モルビリウイルスのVタンパクを、ヒト、イヌ、コウモリ、イルカの細胞に導入し、poly I:Cなどで刺激することでVタンパクによる自然免疫応答阻害活性が、宿主細胞の動物種の違いによってどのように変化するのかを明らかにする。また、組換えウイルス技術を用いてVタンパクの発現を欠いた各種モルビリウイルスを作製し、どのモルビリウイルスのVタンパクが、どの動物種の自然免疫応答を抑制し、いずれのV欠損モルビリウイルスの増殖をサポートできるのかを明らかにする。
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