研究課題/領域番号 |
21H02746
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
山根 大典 公益財団法人東京都医学総合研究所, 疾患制御研究分野, 主席研究員 (60782761)
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研究分担者 |
結城 明香 国立感染症研究所, 安全実験管理部, 主任研究官 (50450557)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 自然免疫 / インターフェロン制御因子 / ウイルス |
研究実績の概要 |
これまで重要視されてきたウイルスに「応答」して活性化されるシグナル伝達機構に対し、恒常的な抗ウイルス防御層を制御する仕組みについてはほとんど解明されていない。研究代表者らは、恒常的にウイルス感染を抑制する機能をもつことを既に見出しているIRF1について、翻訳後修飾を介した活性化機構の解析を行った。FLAGタグをもつIRF1を哺乳細胞内に過剰発現し、抗FLAG抗体を用いて分離精製したタンパク質の翻訳後修飾を調べたところ、リン酸化候補サイトを複数見出した。同定した候補アミノ酸残基をアラニン置換した変異体を作製し転写機能を調べたところ、これらのリン酸化サイトは転写活性に寄与しないことが判明した。 FLAG標識されたIRF1を分離精製する過程でIRF1に結合する宿主因子が同時に分離されることから、IRF1精製産物をショットガンプロテオミクスの手法を用いて解析したところ、多数の宿主因子をIRF1結合因子として見出した。これらの因子の中から、自然免疫および転写調節に関与することが報告されているものを絞り込み、遺伝子ノックダウン解析によりIRF1転写制御および抗ウイルス機能を評価したところ、CSNK2BをIRF1の抗ウイルス機能を促進する因子として同定した。CSNK2Bはカゼインキナーゼ2複合体のうちリン酸化酵素活性をもたない調節サブユニットであり、CSNK2BによるIRF1活性制御はIRF1のリン酸化を伴わないことが示唆された。 CSNK2BがIRF1を制御するメカニズムについて調べたところ、IRF1の標的DNA配列への結合親和性を有意に変化させることでIRF1の転写能を正に制御していることが判明した。これらの結果から、IRF1の抗ウイルス活性はIRF1の発現量のみならず、細胞内のCSNK2Bの発現状態によっても調節され得ることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまであまり着目されていなかった「基底レベル」で機能する抗ウイルスシグナル伝達機構であるが、タンパク質の分離精製手法を用いたインタラクトーム解析により、抗ウイルス転写因子であるIRF1に直接結合し、その転写活性を促進する因子としてCSNK2Bの同定に至った。IRF1は半減期が30分から1時間と短く、不安定であることがこれまでに報告されていることから、その機能は転写レベルで調節されていると長年考えられてきた。それに反し、本研究の結果からIRF1は翻訳後において、CSNK2Bを介した直接的な結合によっても転写機能が制御されることが明らかとなった。これらの成果を現在論文としてまとめており、国際学術誌に投稿中である。本研究において確立した標識タンパク質の精製手法は、タンパク質自体の翻訳後修飾のみならず、精製タンパク質と結合する宿主因子を網羅的に探索するインタラクトーム解析にも応用可能であることを示した。この手法は今後、IRF1以外の宿主抗ウイルス因子のシグナル伝達機構を解析するための重要な基盤となる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、基底レベルの抗ウイルスシグナル伝達を制御する因子として新たにCSNK2Bを見出したが、CSNK2BがIRF1のDNAへの結合を調節する分子メカニズムの詳細は未だ不明な点が残されている。CSNK2Bが直接IRF1に結合することでIRF1の標的親和性を変化させるような高次構造の変化をもたらしている可能性が示唆されることから、今後その作用機序を明らかにする必要がある。引き続きクロマチン免疫沈降法を用いたゲノムワイドなIRF1結合部位の探索から新たな抗ウイルス遺伝子の同定を試みている。 また、IRF1以外の抗ウイルス因子についても、引き続き遺伝子ノックダウンおよびノックアウト解析により解析を進め、同定を試みている。同定された新たな因子については、既に重要性が明らかとなっているIRF1との相互作用および抗ウイルス遺伝子の転写における協調関係を含め、これまでに構築したタンパク質精製、インタラクトーム解析、さらに標的DNAへの結合解析により、シグナル伝達の活性調節から下流のエフェクター分子に至る作用機序の解明を目指す。また、エフェクタ―の作用機序の解析から、肝炎ウイルスおよびデングウイルスを含むフラビウイルスを中心に、抗ウイルス作用をもつ化合物の同定の他、ウイルス感染症の病態を再現可能な小動物感染モデルを用いた解析へとつなげる。上記のアプローチにより、引き続き新たなウイルス培養システムの構築および抗ウイルス薬の開発を目指す。
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