研究課題
本研究の目的は、必須ミネラルによる獲得免疫システム成立の新規分子基盤を明らかにすることである。本年度は以下の成果を得ることができた。1. TRPM7欠損によるT細胞分化障害の分子メカニズムを明らかにするために、コントロールマウスとTrpm7(flox/flox) x Rag1-CreマウスのDN3a細胞を用いてRNA-seq解析を行った。その結果、TRPM7欠損DN3a細胞においてサイトカインAのシグナルの亢進とタンパク質合成経路の活性化の低下が認められた。次に、サイトカインAの影響を排除するために、フィーダーフリーのin vitro のT細胞分化培養系を用いて解析を行った結果、サイトカインAが存在しない状態でもTRPM7の欠損によってT細胞の分化はDN3a細胞で停止した。この結果から、TRPM7欠損による分化障害はサイトカインA非依存的であり、タンパク質合成経路の活性化の低下、あるいは別の要因である可能性が示唆された。2. Trpm7(flox/flox) x Cd4-Creマウスの脾臓由来CD8陽性T細胞を抗CD3抗体と抗CD28抗体で共刺激した場合、細胞は芽球化する一方、刺激後12時間過ぎから細胞死が観察され、18時間後にはほぼ細胞死となった。そこで、TCR刺激後の細胞内シグナル伝達をリン酸化プロテオーム解析した結果、TRPM7はp53に関連する分子やタンパク質翻訳に関連する分子のリン酸化に関与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
RNA-seq解析やプロテオーム解析でTRPM7が関与するシグナル伝達経路が絞り込め、さらにフィーダーフリーのin vitro のT細胞分化培養系で大量にDN3a細胞を得ることができるようになり、in vitroの解析が進められるようになったため。
個体レベルでサイトカインA の影響を排除するために、現在Trpm7(flox/flox) x Rag1-CreマウスとサイトカインA受容体KOマウスの2重欠損マウスを作成中である。この2重欠損マウス由来のDN3a細胞、およびフィーダーフリーのin vitro T細胞分化培養系由来のDN3a細胞を用いてRNA-seq解析とプロテオーム解析を実施し、TRPM7が制御するシグナル伝達経路を同定する。その後、フィーダーフリーのin vitro T細胞分化培養系で、レトロウイルスベクターを用いて候補分子の過剰発現や発現抑制によって、TRPM7によるT細胞初期初期分化の制御機構を明らかにする。
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Nature Communications
巻: 15 ページ: 1530
10.1038/s41467-024-45579-3