研究課題
本研究は、申請者が見出した、癌微小環境で抗腫瘍免疫に応答して癌細胞にゲノムレベルで新たな変異が誘導され抗腫瘍免疫抵抗性となること(cancer genome immunoediting) (Nature Comm.3017:8:14607)、および癌特異的細胞傷害性T細胞(CTL)が疲弊の後に免疫抑制能を獲得することの2つの発見に基づき、癌細胞と抗腫瘍免疫のクロストークの結果として誘導される癌細胞と免疫細胞の変化を解析し、その分子機構を明らかにすることを目的としている。今年度は、癌微小環境での免疫抑制の発動と維持に大きく関与するMyeloid-derived-suppressor cells(MDSC)の解析を行った。MDSCはmonocytic MDSCsとpolymorphonuclear MDSCsに分けられる。癌微小環境の免疫抑制に重要なのはpolymorphonuclear MDSCsとされているが、Mixed lymphocytes reaction cultureではmonocytic MDSCsがより強い免疫抑制能を示した。このmonocytic MDSCsによる免疫抑制はiNOSを介して発揮されており、in vivoでは natural regulatory T細胞を誘導することが示された。さらに、アロ心臓移植モデルにおいてmonocytic MDSCsの移入はpolymorphonuclear MDSCsの移入に比較して有意に長い臓器の生着を誘導した。この結果は、癌微小環境では正常組織とは異なるMDSCの機能分化が起きていることを示唆するものであり、その原因因子の解明を今後の課題としたい。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、癌細胞と抗腫瘍免疫のクロストークの結果として誘導される癌細胞と免疫細胞の変化を解析し、その分子機構を明らかにすることを目的としている。正常な生体内およびin vitroの実験でより強い免疫抑制を示すmonocytic MDSCsでは無く、癌組織内ではpolymorphonuclear MDSCsがより強い免疫抑制能を示すことは、癌微小環境が明らかに異常な免疫環境であることを示唆している。この結果は、本申請研究の方向性の正当性を示したものと考えている。宿主免疫を誘導しながらも増殖を続けるneoantigen/rasH2発現癌細胞由来のクローンをこれまでの研究により既に得ている。今後はこの細胞を用いた研究を中心に進めていきたい。
これまでに樹立したrasH2を高発現しつつ抗腫瘍免疫を発動させるRM200AS1-2.1から選択した複数の細胞株に発現するneoantigenと、これを認識するT細胞レセプターの同定を進め、本申請課題を遂行するに最も相応しい実験モデルを確立する。この実験系を用いて、癌増殖中の癌細胞、各種免疫療法により退縮中の癌細胞、抗腫瘍免疫を回避し再増殖する癌細胞を、それぞれ取得する。それらの癌細胞からDNAおよびRNAを抽出し、移植前の細胞と比較することで抗腫瘍免疫により誘導された遺伝子の変異を解析する。同時に得られる癌組織に浸潤した癌特異的CTLをneoantigen/MHCテトラマーを用いて同定し、再刺激時のサイトカイン産生能等により、癌組織内で特異的CTLが機能を疲弊させる経時的変化を解析する。また、疲弊したCTLがneoantigen特異的なT細胞の反応性に及ぼす影響を解析し、その免疫抑制能を評価する。最終的には、CTLにより癌に変異が誘導される分子機構、癌細胞の変異によりCTLの疲弊と抑制能が誘導される分子機構を明らかにすべく研究を進める。
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