研究課題
本研究は、申請者が見出した、癌微小環境で抗腫瘍免疫に応答して癌細胞にゲノムレベルで新たな変異が誘導され抗腫瘍免疫抵抗性となること(cancer genome immunoediting) (Nature Comm.3017:8:14607)、および癌特異的細胞傷害性T細胞(CTL)が疲弊の後に免疫抑制能を獲得することの2つの発見に基づき、癌細胞と抗腫瘍免疫のクロストークの結果として誘導される癌細胞と免疫細胞の変化を解析し、その分子機構を明らかにすることを目的としている。本年度は、癌細胞と抗腫瘍免疫のクロストークが行われる場である癌微小環境に大きな影響を与えるとして近年注目されている腸内細菌やプロバイオティクスの研究を行い、細菌代謝物が免疫チェックポイント抑制剤の抗腫瘍効果を増強する機序を明らかにし報告した。乳酸菌OLL1073R-1の代謝物である多糖体EPS-R1の飲用がパイエル板内でCD8+T細胞にCCR6の発現を誘導し、この細胞が胸管を通して末梢循環に入り、ケモカインCCL20を産生する癌組織に浸潤する。このCD8+T細胞は癌組織内でIFN-γを産生することでinflamedな癌微小環境を作り、癌特異的なCTLの浸潤を誘導し、またその疲弊を防ぎ、さらには自身の一部も強力な癌特異的CTLとして作用することで、免疫チェックポイント抑制剤である抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体の抗腫瘍効果を増強することを明らかにした。加えて、このEPS-R1の活性部位が多くの乳酸菌が産生するEPS分子中に存在しうるグリセロール3リン酸である事を示し、さらに、これを認識するリンパ球に発現する受容体も示唆した。本報告は、腸内細菌やプロバイオティクスの代謝物が生体に作用する際の新たな機序を明らかにし、さらには、その作用分子構造と受容体までも示したエポックメイキングで革新的なものと考えている。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、癌細胞と抗腫瘍免疫のクロストークの結果として誘導される癌細胞と免疫細胞の変化を解析し、その分子機構を明らかにすることを目的としている。このクロストークが行われる癌微小環境がクロストーク強い影響を与え、また、クロストークが癌細胞や免疫細胞に与える影響も癌微小環境に強く影響されると考えられる。従って、今回の癌微小環境に強く影響を与える細菌代謝物の研究結果は、本申請研究の遂行にあたり宿主マウスの腸内細菌叢等の解析も含めた網羅的総合的解析を行う重要性を示唆していると受け止めている。このことから、宿主免疫を誘導しながらも増殖を続けるneoantigen/rasH2発現癌細胞由来のクローンを用いた研究を遂行しているが、同時に腸内細菌叢や癌微小環境の解析も並行して進めている。
これまでに樹立したrasH2を高発現しつつ抗腫瘍免疫を発動させるRM200AS1-2.1から選択した細胞株に発現するneoantigenと、これを認識するT細胞レセプターの同定を行い、本申請課題を遂行するに相応しい実験モデルの確立を進め、一部結果を得ている。増殖中、各種免疫療法により退縮中、抗腫瘍免疫を回避し再増殖する癌細胞を取得し、DNAおよびRNAを抽出し、移植前の癌細胞由来のDNAおよびRNAと比較することで抗腫瘍免疫により誘導された遺伝子変異の解析を進める。同時に得られる癌組織に浸潤した癌特異的CTLをneoantigen/MHCテトラマーを用いて同定し、再刺激時のサイトカイン産生能等により、経時的にCTL機能の疲弊および免疫抑制能を評価する。最終的には、CTLにより癌に変異が誘導される分子機構、癌細胞の変異によりCTLの疲弊と抑制能が誘導される分子機構を明らかにすべく研究を進める。加えて、今回得られた結果に基づき、癌増殖および免疫反応による拒絶が起きている時の腸内細菌叢を並行して調べ、腸内細菌が抗腫瘍免疫に与える影響および、抗腫瘍免疫反応が腸内細菌叢に与える影響も解析していく。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件)
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