ミクログリアは神経炎症を起こすM1ミクログリアと神経保護的なM2ミクログリアの2つのタイプに分けられる。神経変性疾患では、病期の途中からM1ミクログリアが神経炎症を起こして細胞死を誘導していると考えられている。免疫抑制剤FK506がミクログリアを抑制することでプリオン感染マウスの生存期間を延長することに着目し、ミクログリア細胞株(MG20細胞)にFK506を添加したが、クローンの影響が懸念される結果となった。そこで本年度はプリオン感染マウスから分離したミクログリア(初代培養ミクログリア)を用いて、プリオン感染マウスにおけるFK506の治療効果を検証した。 野生型(ICR)マウスにプリオンを感染させ、発症後に2匹を解剖して脳組織を採取した後、Magnetic Cell Sorting (MACS)法でミクログリアを回収した。回収したミクログリアを1週間培養した。この初代培養ミクログリアにFK506を添加して、48時間後にRNAを回収してqPCR法でM1とM2のミクログリアマーカーの発現レベルを比較した。FK506投与群では、同マウス由来のDMSO投与群(対照群)と比較して抗炎症性サイトカインであるIL-10が10倍以上に上昇していた。一方で炎症性サイトカインであるIL-1βやTNFαの顕著な増加は認められなかった。この結果から、FK506はミクログリアを細胞保護的なM2ミクログリアに誘導することによって、神経炎症を抑制していると考えられる。 また、マウスの生体内でのFK506の効果を検証するため、プリオン感染マウスの発症直前(感染100日後)から4週間FK506を投与した後、解剖した。FK506投与群と同時期に解剖した対照群の脳組織からミクログリアを分離して、mRNAを回収した。今後解析する予定である。
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