研究課題
近年、アルツハイマー病(AD)を始めとする神経変性疾患の病態において、炎症とミクログリアの重要性が明らかとなりつつある. 一方、脳の炎症の中核を担うミクログリアの活性過程の分子メカニズムは未だ不明のままである. 申請者らが同定したミクログリア特異的カルシウム結合蛋白Iba1は、ミクログリアの活性化時に鋭敏に誘導されるが、活性化の分子スイッチとしての役割は検討されていない. 本研究では、神経変性におけるミクログリア/炎症の分子病態解明を目指し、3つの遺伝子改変マウスを樹立して新規治療標的の同定を目標とする.AIM1:Iba1-KOマウスをゲノム編集で作成し、発達過程の評価のため行動学的、組織学的検討を行う. とくに、神経系形態学的検討は詳細に進め、神経発生、正常脳組織におけるミクログリアIba1の役割を明らかにする. Iba1-KO マウスは既に樹立しており、現在計画繁殖を行っている.AIM2:抗IgLON5抗体脳症は、睡眠障害、進行性核上性麻痺と類似した嚥下障害や歩行障害、認知機能障害、不安などの精神症状を合併する自己免疫性脳疾患である. 神経細胞接着分子IgLON5に対する自己抗体が検出され、亜急性に脳幹被蓋部にタウ蛋白が蓄積することが特徴である. 本研究では、IgLON5のノックアウトマウスの作成し、IgLON5の生理機能とタウ蓄積の関連を明らかにし、タウ凝集メカニズム解明を目的とする. すでに、ゲノム編集によりIgLON5ノックアウトマウスを作成した. 生殖や体重、生育に大きな異常は認めていないが、運動解析で運動機能の低下、行動解析では不安感の低下が観察された.AIM3:新規筋萎縮性側策硬化症モデルマウスを作成し、Iba1-KO マウスとの交配によりミクログリア活性の病的意義を検討する. モデルマウスは、現在ゲノム編集により作成中である.
2: おおむね順調に進展している
AIM1:Iba1-KO マウスは既に樹立しており、現在計画繁殖を行っている.AIM2:すでにゲノム編集によりIgLON5ノックアウトマウスを作成し、解析を進めている. IgLON5ノックアウトマウスの脳の解剖学的構造や神経細胞の分布に異常を認めていない. 体温や体重等、生育に大きな変化も認めていないが、運動解析で運動機能の低下、行動解析では不安感の低下が観察された.AIM3:新規筋萎縮性側策硬化症モデルマウスは、現在ゲノム編集により作成中である.
AIM1: Iba1-KOマウスは、発達過程の評価のため行動学的、組織学的検討を行う. とくに、神経系形態学的検討(ゴルジ染色による前頭葉、海馬の樹状突起スパイン)は詳細に進め、神経発生、正常脳組織におけるミクログリアIba1の役割を明らかにする. さらに、Single cell RNA-seq(scRNA-seq)解析にて、ミクログリアを含めた各細胞の特徴的な遺伝子発現プロファイルの変化を検討する.AIM2: 運動解析では、Wire Hang Testで,有意な運動機能の低下を認めた. 行動解析では、light/dark transition testとopen-field testによる不安関連行動の評価で、有意な不安感の低下が観察された.すなわち、IgLON5ノックアウトマウスは、本疾患の主要症状である運動障害と精神症状を呈している可能性がしめされた. 今後、計画繁殖後、ノックアウトマウスに対しては、海馬、視床下部の神経細胞死、不溶性タウの蓄積を組織学的、生化学的に解析する. 運動解析としては、Rota-rod、Beam testにて検討する. 認知機能の解析として作業記憶(Barnes maze、 Y maze)、文脈記憶(Trace fear conditioning test)、社交性の障害(3 chambers test)を検討し認知症の表現型を解析する.さらにAAV2/2_Tau-P301L脳内遺伝子導入によるタウ強制発現マウス、P301S変異タウトランスジェニックマウスとの交配においてタウ蓄積、神経細胞死を定量評価する.これらの解析においては、我々はこれまで多くの神経変性疾患モデルマウスを作成、解析しその分子病態の解明には十分な実績があり技術、設備的障壁はない.AIM3:新規筋萎縮性側策硬化症モデルマウスは、現在ゲノム編集により作成中である.
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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