研究課題/領域番号 |
21H02849
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村井 俊哉 京都大学, 医学研究科, 教授 (30335286)
|
研究分担者 |
藤原 広臨 京都大学, 医学研究科, 講師 (10599608)
大石 直也 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (40526878)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | うつ病 / 視床下部 / 安静時機能的MRI / 機械学習 |
研究実績の概要 |
うつ病の神経基盤は、脳領域間の結合性の病態であるとの知見が集積しつつある。脳領域間の結合性の病理は、安静時fMRIによって視覚化が可能であり、これまでの研究から、うつ病では複数の脳構造間の機能的な結合の異常が関与すると推察されている。 一方、脳領域間結合性のイメージングに関する技術的限界も指摘されている。うつ病では、視床下部-下垂体-副腎系を介した内分泌機能調節異常が存在するが、視床下部は、1.周囲との機能的境界が不明瞭、2.内部に機能の異なる小神経核が混在、という解剖学的特徴のため、信頼性と妥当性を備えた機能的結合の描出に限界があった。 しかし、高いシグナル・ノイズ比と空間解像度を実現できる超高磁場MRI(7テスラ)の導入後、より高精度・高精細な安静時fMRI撮像が可能となった。この特性を最大限に活用することで、これまでは研究対象とできなかった脳領域に関しても機能的結合を評価できるようになった。 本研究では、うつ病患者にて超高磁場MRIを用いた安静時fMRIを撮像し、これまで十分に検討されてこなかった視床下部に関し、機能的結合の観点からみた特徴を高精度かつ網羅的に抽出する。また、周囲脳構造との機能的境界の決定や、内部構造の高精度分割化を行うべく、データ駆動型の脳領域分割手法を応用した画像解析技術を開発する。これらにより、うつ病の症状や関連する心理指標との関連を調べ、病態理解を推進することを目標とした。本年度は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により若干の実験進捗に支障が出たものの、概ね順調にMRI撮像等のデータ取得が進み、新たな解析方法の進捗をみた。さらに、脳画像指標との関連を見ていくうえで必要な心理指標を用いた基礎的実験や、うつ病の神経基盤として想定されており、視床下部をその一部として含む脳内報酬系に関する先行研究の総括などの論文成果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.7T-fMRIデータ収集:2021年度、合計30名(うつ病患者13名および健常人17名)の撮像を行った。COVID-19拡大の影響でリクルート体制に若干支障は出たものの、概ね順調であった。また、7T-fMRIを撮像した症例においては、従来稼働中の3T-fMRI撮像も併せて行った。 2.7T-fMRI画像解析手法の開発 1)画像処理によるS/N比の向上:独立成分分析を用いた脳外信号成分の同定・除去を実施した。7T-fMRIの撮像条件をHuman Connectome Project(HCP)で実施されている7T-fMRI撮像条件に合わせ、HCP準拠の脳外信号成分除去用辞書を適応することで効率的なノイズ成分の除去を達成することができた。さらに、信号・雑音成分の除去比率のためのパラメータ最適化を行い、今回の7T-fMRIに適した脳外信号成分除去技術を確立した。2)平滑化による境界情報損失の改善:GPGPUを用いた境界情報を保持した高速・高精度の平滑化フィルタを改良し、構造情報を制約条件とした7T-fMRI用の空間的ノイズ除去アルゴリズムを新規開発した。その結果として、従来の境界情報保持ノイズ除去フィルタよりもさらにS/N比の高い機能的結合マップを描出することに成功した。 3.心理行動指標:7T-fMRI撮影と同時にうつ症状および不安症状を含む多数の神経心理検査を行い、心理行動指標のデータベースを構築している。心理検査後のデータ入力を含め、データベースの構築は概ね順調に進んでいる。なお、心理行動指標を用いた研究成果として、COVID-19肺炎患者のうつ症状に関するサーベイを論文化した。また、視床下部を含む脳内報酬系(主にドパミン神経伝達)に関する心理指標等の神経基盤に関する総説論文を出版した。
|
今後の研究の推進方策 |
1.7T-fMRIデータ収集:2021年度のリクルートは順調に進んだと考えられるため、現状の体制を維持しつつ、今後もうつ病および健常者の被験者リクルートを継続する。しかし、本年度の新型コロナウイルス感染症拡大の状況によっては、被験者リクルートに影響が出る可能性があり、感染状況を見ながら柔軟に対応した上でデータ収集を継続する。 2.7T-fMRI画像解析手法の開発:今後も画像解析手法の開発を継続する。到達目標としては、クラスタリングなどの機械学習的手法を応用し、視床下部の機能的境界の改良および高精度の脳領域分割化を行うための手法を新規開発する。また、7T-fMRIでは3T-fMRIと比較し、撮像シークエンスに伴う画像の歪みが大きくなるため、解剖画像への高精度位置合わせを含めた適切な歪み補正法を確立する。 3.心理行動指標:2021年度と同様に、現在の体制を維持しつつ、今後も7T-fMRIと同時に神経心理検査を行い、心理行動指標のデータベースの構築を進める。 また、画像解析手法の開発が終了後、実際の7T-fMRI解析を開始、結果を国内外の学会、および学術論文として報告する。
|