研究課題/領域番号 |
21H02853
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
久保 健一郎 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20348791)
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研究分担者 |
林 周宏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60373354)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 空間的遺伝子発現解析 / Visium / GeoMX DSP / 単一細胞解析 / 単一核解析 / 動物モデル |
研究実績の概要 |
統合失調症に罹患した患者と、正常対照者の死後脳組織を用いた単一細胞(核)解析を行うため、核の抽出方法について、条件検討を行った。その上で単一細胞(核)解析を行う脳と同じ脳に由来する組織を用いて、空間的遺伝子発現解析(Visium、GeoMX DSP)に着手した。 Visium法(10X GENOMICS社)を用いた解析においては、単一細胞(核)解析を行う脳組織と同一の脳の隣接した組織を用いて、細胞の位置情報と結びついた網羅的な空間的遺伝子発現解析を行うことが可能である。まずは、統合失調症に罹患した患者に由来する脳組織6例と、正常対照者に由来する脳組織6例を、凍結状態で薄切してVisium法を行うためのスライドに貼付して、解析のための準備を行った。また、これらの空間的遺伝子発現解析を行う脳と同じ脳に由来する組織を用いた、単一細胞(核)解析を行うために、組織を適切な大きさにブロックとして切り出した。 空間的遺伝子発現解析の別の手法である、GeoMX Digital Spatial Profiler (DSP)法(Nanostring社)では、抗体を用いて特定の細胞集団を抽出しながら、それらの細胞集団の位置情報と結びついた網羅的な空間的遺伝子発現解析を行うことが可能である。このGeoMX DSP法を用いた解析に関しては、統合失調症に罹患した患者に由来する脳組織3例と正常対照者に由来する脳組織3例、計6サンプルのパラフィン包埋組織から薄切標本を作成して、GeoMX DSP法を用いた解析に着手した。 また、本研究では、今後、これらの解析結果を踏まえて、動物モデルの作成を行う。そのような動物モデルの作成において、予備的な知見となる、脳の正常の発生機構についての新たな知見が得られたため、論文として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
統合失調症に罹患した患者と、正常対照者の死後脳組織を用いた単一細胞(核)解析を行うため、核の抽出法について、予定通り、条件検討を行い、単一核の抽出に成功した。加えて、Visium法(10X GENOMICS社)を用いた解析及びGeoMX Digital Spatial Profiler (DSP)法を用いた解析に予定通り着手することができた。これらの解析手法は世界的にも新規の手法であり、国内でも実施例が極めて少ないか、実質、無いといっても良い。このため、様々な条件検討や、初めて行う条件での薄切に多くの予行練習が必要であり、実際に、非常に困難な作業であった。しかし、その困難を乗り越えて、なんとか順調に解析の準備を進めることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、これらの空間的遺伝子発現解析によって、統合失調症に罹患した患者と正常対照者の脳でどのような遺伝子発現パターンの違いが見られるかを解析する。解析結果について、インフォマティクス解析を行い、同一の細胞集団毎に、どのような遺伝子発現に変化が生じているかを検出する。また、空間的に、どのような遺伝子発現パターンの変化が見られるか、そして、同一の細胞集団の分布がどのように異なるのかを検出していく。 検出した細胞群の空間的配置や、その細胞群における遺伝子発現など、分子的性質について、実際に統合失調症の脳において変化が生じているかを検証する。このために、他の症例も含め、再び、統合失調症と正常対照の死後脳組織を用いて、抗体等を用いた組織学的解析や、感度が高く複数のmRNAを同時に可視化できるHybridization Chain Reaction(HCR)法やRNAscope法(いずれの手法も研究室内で技術的に確立済み)などのRNA蛍光in situハイブリダイゼーション(RNA-FISH)による解析を行う。これらの検証により、統合失調症の脳において、空間的配置や分子的性質が変化している細胞群を明らかにする。 さらに、これらの解析結果を踏まえて、それらの結果を反映した、動物モデルの作成を行う。作成した動物が統合失調症をはじめとする精神疾患に類似した表現形を示すかどうか、検証を行う。
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