研究課題/領域番号 |
21H02856
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
本多 真 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, プロジェクトリーダー (50370979)
|
研究分担者 |
伊東 若子 公益財団法人神経研究所, 研究部, 研究員 (10775828)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ADHD / ASD / 過眠 / PSG / MSLT / biomarker / メラトニン |
研究実績の概要 |
神経発達症は行動学的症状で定義され、客観的診断指標は確立されておらず、行動学的症状にも個人差が大きい。一方で神経発達症(ADHD, ASD)はともに睡眠覚醒障害と密接に関連することが知られる。本研究では、発達障害(特に過眠症状の併存群)にみられる睡眠や覚醒の質について包括的な評価を行い、発達障害の病態基盤を反映した特異的な睡眠覚醒指標(睡眠バイオマーカー)を見いだすこと、同定された指標の妥当性検証を通じ、発達障害の客観的評価と下位分類を試みることを目的とする。 本年度はASDにおける日中のセロトニン低活性と夜間メラトニン分泌異常という病態仮説の検証を行った。PSG検査入院日に夜間蓄尿し、尿中6-sulfatoxymelatonin(MLT6sメラトニンの主要代謝産物)総量を測定することで、夜間メラトニン分泌量を推定した。症例蓄積がすすみ、175例(25.2±9.3歳,m/f=92/85)で検討したところ、MLT6sと睡眠指標は明瞭に関連し、睡眠効率・クロノタイプに加え身体的QOLと有意な相関を示した。しかしASD群24例(ASD/ADHD合併例を含む)に特異的なMLT6s低下は認められなかった。ASD単独群の症例を増やした検討が必要である。 心拍変動(HRV)解析の専門家である榛葉博士に、日中MSLT前覚醒時およびMSLT睡眠試行中の自律神経指標(LF,HF)の変動についてパイロット解析を依頼した。ADHD症例で特徴ある変動が見られ、今後追加解析の準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
睡眠指標(睡眠ポリグラフ検査PSG-反復睡眠潜時検査MSLT)を施行済みの症例集積は順調に進行している。2022.4-2023.3の1年間での総検査数126症例のうち、服薬中や精神症状不安定等で同意取得を行わなかった8例以外の118例を症例追加できた。2021.4研究開始からの睡眠障害診断は総計217例で確定(うち過眠症は156例、内訳はナルコレプシータイプ1が24例・ナルコレプシータイプ2が36例・ 特発性過眠症が96例)、神経発達症の有無についての診断は199例が判明 (うち神経発達症およびグレーゾーンをあわせて114例)、そのうち確定診断できた症例は63例(ADHD37,ASD9,ADHD+ASD17)である。 本研究遂行の律速段階は、心理検査等により確定診断された神経発達症症例の蓄積である。過眠症疑い等で睡眠検査を受けるASDは、ADHDとの併存例やグレーゾーンが多い傾向がある。 脳波定量解析法(Odds Ratio Product)による睡眠深度解析は167例での試験解析は行ったが、spindleを除外しない条件では睡眠段階特異性を示すことができなかった。そこで、マウスでスピンドル検出アルゴリズムを開発した三輪博士に、ヒトPSG記録に適応可能なアルゴリズム開発を依頼中である。 心拍変動(HRV)解析は専門医の協力のもとパイロット研究を進めているが、健常対照者のデータが以前のPSG検査機器で記録されたものであり、その機器で機種特異性のあるPSGデータを汎用性のあるEuropean data format(edf)に変換するとHRV解析機器で読み込めるファイル形式に不一致があって基礎検討ができていない。新PSG検査機器でベースラインとすべき症例を探索しつつedf化を継続中である。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き年間100例以上の過眠疑い症例集積を行う。睡眠ポリグラフ検査所見、HRVなど生理学的指標、質問票による主観的評価、生化学指標(MLT6s測定)を収集、平行して神経発達症の確定診断も進め、睡眠障害と発達障害の確定診断例を増やすことに取り組む。 ・夜間睡眠深度判定のORP法はspindle同定と除外が予想以上に困難と判明したため、電気生理学的指標としては、夜間PSGから日中行われるMSLTとその間に追加して行う覚醒脳波の解析に比重を移す(覚醒脳波についても研究協力同意取得者を増やす)。 特にASDについては、ASDで提唱されているセロトニン低下を生理指標(alphaパワーの低下)について仮説検証を行う。なお日中のPSG記録は短時間であるため、アーチファクトを視察除外でき睡眠ステージ判定と対応させて解析できる利点がある。 ・この覚醒時PSG記録を用いた心拍変動解析を多数例で行い、自律神経指標と睡眠段階、睡眠診断、神経発達症診断との関係を明らかにする。 ・生化学指標として、引き続き夜間畜尿と尿中メラトニン代謝産物(MLT6s)測定を進める。100症例追加し、合計270例で基本的な共変量を調整して、夜間メラトニン分泌量の睡眠障害特異性と発達障害特異性を検証し明らかにする。 ・別の研究で血液中のRBC分画を用いた酸化ストレス指標(GSH/GSSG)測定法が確立され、本研究と重なる症例についてのデータを取得しつつある。酸化ストレス指標を神経発達症の新たなbiomarkerとできないか、探索的な検討も行う。
|