心臓移植に代わる心筋細胞移植において、移植細胞が長期生着可能な免疫抑制プロトコールを確立するために研究を行い、以下の実績を挙げた。 1)カニクイザルMHC型の同定とドナーiPS細胞の樹立:フィリピン産カニクイザルに対してRNAシークエンスによるMHC型同定を行い、MHC型ホモ接合体個体から皮膚線維芽細胞を採取し、OCT3/4、SOX2、KLF4、L-MYCを遺伝子導入することによりiPS細胞を作製した。また、レシピエント動物として、MHC型がドナー細胞と異なる個体を11頭同定した。 2)カニクイザル発光イメージングシステムの開発:一頭のカニクイザルで複数の免疫抑制プロトコールの評価を可能とするために、改良型LuciferaseであるAkaluc遺伝子をCRISPR-Cas9システムによってヒトiPS細胞のAAVS1領域に遺伝子導入し、この細胞のin vivoにおける発光イメージングを検証した。AKaluc導入iPS細胞から作製した心筋細胞を、カニクイザル心臓に移植したところ、発光イメージングにより生体内での移植心筋能同定に成功した。 3)同種心筋細胞移植試験:レシピエント動物に対して、左冠動脈前下行枝結紮により3時間血流を遮断し、その後抜糸し再灌流させ虚血再灌流による心筋梗塞モデルを作製する。心筋梗塞作製2週間後に、2×10^8個のiPS細胞由来心筋細胞を梗塞領域および周辺領域に直接注射により移植する。免疫抑制剤として、現在心臓移植において標準的に用いられている、メチルプレドニゾロン、シクロスポリンA、ミコフェノール酸モフェチルの3剤を移植直前から投与し、細胞移植を行った。移植後、4週間ごとに移植心筋細胞の生着を評価しながら、免疫抑制剤を削減し、最適な免疫抑制剤の組み合わせを同定した。
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