研究実績の概要 |
動脈硬化性疾患治療においては、LDLコレステロール低値ながら冠動脈疾患リスクの高い「残余リスク」の病態解明が求められている。本研究では、生体内・外での酸化ストレスおよび生体内でのコレステロール異化の過程で生成するコレステロール酸化物である酸化ステロールが、「残余炎症リスク」の原因分子であるという仮説の下、(1)臨床研究においてヒト生体内で同定される複数の酸化ステロールと冠動脈疾患病態との関係を明らかにし、(2)連携した基礎研究において酸化ステロールが炎症を惹起する分子機序と治療標的を明らかにし、(3)疾患モデルとして心筋虚血再灌流傷害、心筋梗塞後リモデリングにおける酸化ステロールの役割を明らかにすることを目的とした。 2022年度に続き、2023年度はコレステロール代謝に関する多施設臨床データを解析し、コレステロール吸収と動脈硬化性心血管病(冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患)の関連を明らかとし2報の報告を行った(Katsuki, S., Matoba, T., et al. Journal of Atherosclerosis and Thrombosis, 2023:64119;Akiyama, Y., Katsuki, S., Matoba, T., et al. Nutrients, 2023:15(13). 基礎研究においては、マウス心筋梗塞モデルにおいて、7-ketocholesterolの摂取が心筋梗塞サイズを増悪させることを示し、主要な分子機序が小胞体ストレスで誘導されるERO1であることを見出し、siRNAおよびERO1阻害薬封入ナノ粒子によるin vivoでの阻害による、マウスモデル心筋梗塞治療効果の検討に入っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度においては、臨床研究、基礎研究とも当初仮説に合致する成果が得られ、当初の計画以上の進展が得られた。 1)2023年はコレステロール代謝マーカーに関する多施設臨床研究に参画し、コレステロール吸収が動脈硬化性心血管病(冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患)リスクと正相関することが明らかとなり、酸化ステロール吸収機序を補強する臨床知見となった(Katsuki, S., Matoba, T., Akiyama, Y., et al. J Atheroscler Thromb, 2023:64119) 2)研究代表者が実施したCuVIC Trialデータにおいて、血清酸化ステロールと、臨床背景因子、コレステロール合成・吸収マーカー、炎症マーカー、酸化ストレスマーカーの多変量の共分散構造分析を行い、コレステロール腸管吸収と血中酸化ステロール高値との関係をモデル解析し、論文公表した(Akiyama, Y., Katsuki, S., Matoba, T., et al. Nutrients, 2023:15(13).)。 3)酸化ステロールの急性心筋梗塞病態における役割と治療標的の解明 2023年は、マウス心筋梗塞モデルにおける左室リモデリングにおいて、7-ketocholesterol (7-KC)によるERストレスによるシグナル経路の中でERO1の活性化がredoxシグナリングを介して上記炎症性サイトカインの発現を誘導することが示唆された。ERO1の阻害による治療介入を計画し、si-ERO1・リポソームを作成し、培養マクロファージにおけるERO1のノックダウンが、7-KCによる炎症サイトカイン誘導を抑制することを示した。その結果に基づき、マウス心筋梗塞モデルにおけるsi-ERO1の治療効果を検証予定である。
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