研究課題
膵島細胞移植モデルを用いて、皮下に血管新生誘導し細胞移植する際に惹起される生体反応を解明し、至適な時期の移植を可能とし、細胞障害の少ない移植部位を構築することを目的とした研究を行った。本研究では、bFGF-ヘパリンとアガロースロッドを移植部位形成剤として用いて、血管を誘導した皮下に同種同系統の膵島を移植するモデルを用いた。移植部位形成剤の留置期間を1週間、2週間と2群に分けた検討を行ったところ、2週群の移植成績が良好であった。形成された移植部位周囲の細胞を調べたところ、1週群では好中球の集積が多く、2週群ではマクロファージの集積が比較的多かった。また、移植部位周囲のサイトカインを調べたところ1週群でTNF およびIL-6が有意に髙値であった。TNFおよびIL-6が移植グラフト生着を阻害する要因であるかどうか調べるために1週群に抗TNF抗体および抗IL-6抗体を使用して移植したところ、移植成績の改善が確認された。皮下膵島移植成績に影響を与える因子は様々であるものの、この研究により移植部位作成および血管誘導初期に起こる炎症細胞の集積、およびそれがもたらすTNFおよびIL-6といった炎症性サイトカインが移植グラフト生着を阻害する一因であることが明らかとなった。この知見は、皮下の血管新生誘導においては炎症反応を伴うこと、炎症が沈静化したタイミング、あるいは炎症を抑える処置を加えた上で移植を実施することの必要性を示唆するものである。皮下血管誘導後の最適な時期に移植をすべきという点は、ドナーの出現に依存する同種膵島移植に臨床応用することにはハードルとなるが、on demandに移植ができるiPS細胞由来膵島細胞移植等では臨床応用は可能である。今後、Allogeneicな移植モデルでの研究結果もふまえ、皮下移植の展開についてさらに検討を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
「皮下細胞移植部位成立機序の解明とバイオマーカー探索」を具体的目標として研究を実施した。皮下への膵島(細胞)移植では、血管誘導が必要であることは知られていたが、必要性の具体的な解明はなされていない。今回、皮下への血管誘導の初期段階において 好中球とマクロファージが蓄積し、炎症性サイトカイン、特にTNFとIL-6の産生が早期生着を阻害することが判明した。血管誘導が炎症反応を引き起こし、移植細胞の生着に悪影響を及ぼす、とするこれまでに明らかにされていなかった知見が得られ たことは、本研究の目的の達成に向けて順調な進展である。さらに、移植部位の免疫細胞のプロファイルについてフローサイトメーターでの定量的な評価により、マクロファージの挙動にも知見が得られている。またCytmetric Bead Arrayを用いて、移植部位の各種サイトカイン測定の実施により、抑制性サイトカインが至適移植時期のバイオマーカーとなりえるとする仮説の検証も進んでいる。これらは 皮下膵島移植の生着率を向上させる治療戦略において、貴重な知見を提供するものであると思われる。
膵島細胞皮下移植モデルにおける、至適および非至適条件間の免疫細胞解析と液性因子の評価によるバイオマーカー探索を引き続き進める。皮下細胞移植部位構築における生体反応の推移を解明し、血管誘導後の至適移植実施時期を評価する方法を確立するための検討を行い、皮下膵島細胞移植モデルの確立を目指す。さらに、薬剤誘発性糖尿病マウスを用いた同種皮下膵島細胞移植での生着率検討により、本方法で局所に誘導される抑制性サイトカインおよび制御性T細胞が、同種細胞移植免疫反応を制御しうるか、制御不十分な場合には制御性T細胞の投与(全身または局所投与)で免疫寛容が達成できるか、という点について研究を推進し、皮下移植の臨床応用に向けた知見を蓄積する予定としている。
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Transplantation
巻: Online ahead of print ページ: Online
10.1097/TP.0000000000004909
日本外科学会雑誌
巻: 124 ページ: 190-197
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巻: 27 ページ: 1881