研究課題/領域番号 |
21H03060
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松尾 光一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (40229422)
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研究分担者 |
河合 克宏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00553653)
黒田 有希子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任講師 (70455343)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 骨芽細胞 / 破骨細胞 / 皮質骨 / トランスペアリング / 頭蓋骨 / X線CTイメージング / 坐骨神経切除 / 皮質骨内管腔 |
研究実績の概要 |
筋骨格系は、高度に左右対称である。「骨が左右対称性に形作られる形態形成の細胞機構」を解明するために、二つの現象に着目して研究を進めた。一つ目は、胎児期に左右対称性の軟骨原基を骨に置換したり、膜性骨化で直接骨化していく「骨格形成の段階」であり、二つ目は生後に骨化した骨が筋肉などの骨周囲の臓器・組織の成長と同調して一体となって成長しながらその形を改変していく「骨の変容成長の段階」である。すなわち、左右対称性の骨格パターン形成を説明する「細胞キラリティ仮説」と、パターン形成後の骨の左右対称性の変容成長を説明する「トランスペアリング仮説」の検証を目的とした。 【細胞キラリティ仮説】“骨芽細胞には、鏡像の左手型細胞と右手型細胞が存在して、左右対称の骨格を形成する”という「細胞キラリティ仮説」に基づき、培養系で細胞キラリティを計測した。生体内において、正中面を境に細胞レベルで鏡像であれば、左右対称な骨格系の形態形成を容易に説明できる。これまでマウスの初代骨芽細胞を用いて得られたデータからは、骨芽細胞はホモキラル的であり、細胞より大きなスケールで左右対称構造の構築が行われていることが示唆された。 【トランスペアリング仮説】“皮質骨を挟んだ破骨細胞と骨芽細胞の対合メカニズム(トランスペアリング)が存在して、成長過程で左右対称性の周囲組織の形態に応答し、骨が左右対称性に変容しながら成長する”という「トランスペアリング仮説」に基づき、どのように破骨細胞と骨芽細胞が皮質骨の裏表という遠隔でありながらコミュニケーションができているのかというメカニズムを解析した。皮質骨を貫通する管腔構造が、内向きのトランスペアリングで皮質骨内外のコミュニケーションを担っていることを示すデータが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【細胞キラリティ仮説】これまでのマウス頭蓋骨由来の初代骨芽細胞を用いた解析によると、左右どちらの頭蓋骨から調製した骨芽細胞も、同じ型の細胞キラリティ、つまりホモキラリティを示していた。そこで、骨芽細胞の偏った細胞キラリティが、頭蓋骨や長管骨の微細形態に反映しているという作業仮説を検証するために、6週齢を中心に、マウス前頭骨を高解像度X線CTで経時的に解析した。生後の前頭骨の大部分は皮質骨が1層であり、左右の前頭骨それぞれで、周辺部分から中心に向けて放射状の骨梁が徐々に形成されて2層構造になっていくことが観察された。この放射状骨梁は概ね左右対称であるものの、その対称性は不完全であり、骨芽細胞の偏ったキラリティを反映している可能性が見いだされた。レーザー共焦点顕微鏡を用いた骨芽細胞や破骨細胞、血管のイメージングにより、放射状骨梁の周囲に特徴的な骨芽細胞や破骨細胞の配置が観察された。また別に、成長過程のマウスについて右腓骨の高解像度X線CTイメージング像を得た。骨小腔を楕円体近似して、各骨小腔の長軸方向と、骨表面骨髄の長軸方向との関係を定量的に評価したところ、皮質骨の特異部分を除き、骨髄側から見て同一方向に傾いている骨小腔が、逆方向に傾いているものよりも有意に多かった。つまり、腓骨の皮質骨にある骨小腔の集団は螺旋様に配置していた。螺旋様構造はキラリティをもつので、左右の長管骨が鏡像か、ホモキラルであるかを判定できる。頭蓋骨と長管骨での形態学的解析基盤を確立できたので、細胞キラリティの偏りと骨形態との関係が明らかにできる見通しが立った。 【トランスペアリング仮説】坐骨神経切除術後のマウス長管骨を用いたX線顕微鏡による解析などにより、皮質骨を貫通する管腔構造が、内向きのトランスペアリングで皮質骨内外のコミュニケーションを担っているというデータが得られたので、論文化の見通しが立った。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、下記の二つの仮説の検証について論文化に必要十分なデータの収集を目指す。 【細胞キラリティ仮説】新生仔マウスの頭蓋冠や、離乳後の大腿骨・脛骨、耳小骨や蝸牛から初代骨芽細胞を単離する。次に、細胞培養レベルで右手型や左手型というキラリティを検出する手法(Wan et al, 2011, PNAS; Tee et al, 2003, Nat Commun)をさらに改良し、フィブロネクチンを縦600x横300ミクロンの長方形状にガラス面に塗布する。その上で骨芽細胞を培養し、フィブロネクチンでコートされた長方形部分に骨芽細胞が接着して整列するのを待ち、明視野で撮像し、細胞集団として右方向に傾いて配列するもの(右手型と呼ぶ)と左方向に傾くものを定量的に解析する。さらにアクチン線維を蛍光染色して方向を定量する。生体内においても、細胞キラリティを反映する構造の検出を目指す。 【トランスペアリング仮説】マウス腓骨の皮質骨において、骨外膜の骨芽細胞と骨内膜の破骨細胞が皮質骨を挟んで対になっている「外向きのトランスペアリング」と、骨外膜の破骨細胞と骨内膜の骨芽細胞が対になっている「内向きのトランスペアリング」とを区別し、骨の外からの圧迫に応答して骨を変形させる内向きのトランスペアリングのメカニズムを解析する。具体的には、高解像度ナノCT(nano3DX, リガク)やライトシート顕微鏡(Zeiss LSM980)、共焦点顕微鏡(Evident FV3000, Nikon C2)などを用いて、皮質骨を高解像度に撮像し、皮質骨を貫通する血管腔の可視化や、その直径や密度などの定量を行う。坐骨神経切除術を行うと、内向きトランスペアリングが腓骨の骨幹部の全周に広がる。その状態で皮質骨貫通血管も全周性に広がるかどうかを検討する。
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