研究実績の概要 |
小児がんサバイバーの約3割が、晩期合併症である不妊症を発症する。しかし、精子凍結保存が叶わない性未成熟の若年性がん患者の妊孕性の温存法は確立されていない。申請者はマウスの精細管内にベンザルコニウム塩化物(Benzalkonium Chloride; BC)を注入すると、精子幹細胞ニッチを構成するセルトリ細胞を選択的に除去することを見出した。BC注入後のマウス精巣に別個体の精巣細胞を移植することで、精子幹細胞だけでなくニッチを構成するセルトリ細胞、ライディッヒ細胞や筋様細胞を置換でき、宿主の精巣内でドナー由来の精巣を再構成することに成功した(Yokonishi, Nat commun., 2020)。本手法を用いることで、マウス精巣の中でヒト精巣を再構築すれば、若年性男性がん患者の妊孕性の温存法となると期待された。 BC注入後の移植効率は低いため、宿主の前処置法を改良し、ドナー細胞の定着率を向上させる必要がある。アルキル化剤のブスルファン腹腔投与は、精子幹細胞を死滅させる。このような作用から、アルキル化剤は精子幹細胞移植の宿主の全処置として使用されている。そこで、マウスを用いて、ブスルファン腹腔投与後の精巣にBCを注入し、同種移植効率が向上できるか検討した。ブスファン投与+BC群、ブスルファン投与群、BC投与群に同種移植をおこなった。 3群の中で、ドナーの精原細胞、セルトリ細胞や間質細胞の定着率は、ブスファン投与+BC投与群が最も高かった。BC投与にブスルファン投与を加えることで同種移植の効率が上がったことから、異種移植の前処置としても有効な手法であると考えられた。
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