研究課題
上皮-間葉相互作用により形成される器官は特徴的な形態変化を示すが、その制御機構については未だ不明である。本研究は、上皮-間葉相互作用により形成される器官の運命決定機構を解明することを目的として研究を開始した。本年度は主に、昨年度構築した歯の発生期のscRNA-seqデータベースを用いて、歯に特異的に発現する遺伝子の網羅的解析を行った。その結果、歯の間葉細胞に特異的に発現し、前象牙芽細胞クラスターに特異的に発現する因子として、GPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)の一つであるLy6 lymphocyte antigen-6 (Ly6)/Plaur domain-containing 1 (Lypd1)を同定した。本因子は細胞膜に存在する脂質ラフトに局在することが知られている。そこで、脂質ラフトおよび Lypd1 の前象牙芽細胞における機能を解析するため、各種ラフト阻害剤および Lypd1 siRNA を用いて解析を行ったところ、ex vivo 器官培養法において、象牙芽細胞分化が抑制された。さらに、歯原性間葉細胞株 mDP を用いて Lypd1 が関与するシグナル経路のスクリーニングを行ったところ、Lypd1 の低下によりBMPシグナル経路の下流因子である Smad1/5/8 のリン酸化が抑制されることを発見した。以上の結果から、Lypd1はBMPシグナル経路を制御することで、象牙芽細胞への分化を制御していることが判明した。本研究成果は、Lypd1の新規前象牙芽細胞マーカーとしての有用性を示し、脂質ラフトによるシグナル伝達経路の調節を介した細胞分化制御機構の解明の一助となるものである。
2: おおむね順調に進展している
本年度は主に、運命決定にかかわる遺伝子のスクリーニング解析を行い、いくつかの機能分子の同定に成功した。
本年度の同定した遺伝子機能の解析をさらにすすめる。また、器官運命決定に関わる因子のスクリーニングを行う。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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