口腔マイクロバイオームの新機能：「副代謝系」の解明による口腔と全身の健康増進戦略

2023 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 21H03151
• 配分区分: 補助金
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 高橋 信博 東北大学, 歯学研究科, 教授 (60183852)
• 研究分担者: 佐藤 拓一 新潟大学, 医歯学系, 教授 (10303132) ; 鷲尾 純平 東北大学, 歯学研究科, 准教授 (20400260) ; 坂本 光央 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 専任研究員 (50321766)
• 研究期間 (年度): 2021-04-01 – 2025-03-31
• キーワード: 口腔マイクロバイオーム / 副代謝系 / 硝酸塩代謝 / アルコール代謝 / ポリアミン代謝

研究実績の概要

1.　「副代謝系（エタノール代謝系）」の活性測定と細菌の同定
代表的「副代謝系」である口腔マイクロバイオームのエタノール代謝は、アルコール飲料等に含まれるエタノールを発がん性の高いアセトアルデヒドに変換し、口腔・咽頭における発がん因子の一つと考えられている。そこで、ボランティアを募り、研究倫理審査に基いてインフォームドコンセントを得たのち、口腔マイクロバイオーム（プラーク）を採取し、試料の1/2量にエタノールを加え、37℃、30分間代謝させた。代謝産物を同定・定量したところ、口腔マイクロバイオームによるエタノールからのアセトアルデヒド産生活性は個人差が大きいことが分かった。さらに、ほとんどの口腔マイクロバイオームはアセトアルデヒド分解活性も持つことが新たに明らかになった。試料の残り1/2量を血液寒天平板に播種し、エタノール産生能、アセトアルデヒド分解能を持つコロニーを検出し、菌種を同定した。これらの結果は学会にて発表し、さらに、現在、論文として投稿準備中である。
2.　「副代謝系（硝酸塩代謝系）」活性測定と細菌の同定
葉物野菜に多く含まれる硝酸塩は口腔マイクロバイオームによって亜硝酸塩に代謝され、亜硝酸塩は小腸より血液循環に吸収されて全身の血管を拡張することで高血圧を予防すると考えられている。そこで、口腔マイクロバイオームによる硝酸塩代謝活性についても並行して行い、全ての口腔マイクロバイオーム試料において硝酸塩代謝による亜硝酸産生活性が存在するものの、その個人差は大きいことが明らかになった。加えて、産生された亜硝酸塩は口腔マイクロバイオームによってさらに代謝分解されることが明らかになり、これらの活性を持つ細菌の同定と、その中の代表的細菌を用いた代謝系および代謝調節機構について現在、研究を進めている。これらの結果は学会にて発表し、現在、その一部は論文として投稿中である。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

口腔マイクロバイオームの主要な「副代謝系」として「エタノール代謝」と「硝酸塩代謝」があるが、その両者において実際の口腔マイクロバイオームにてその存在が確認され、さらに、それぞれの代謝産物であるアセトアルデヒドと亜硝酸塩をさらに代謝する活性も確認された。また、これらの代謝活性を持つ口腔細菌が特定され、代謝系や代謝制御の詳細について明らかになりつつあることから、おおむね順調に進展しているものと判断した。

今後の研究の推進方策

口腔マイクロバイオームの主要な「副代謝系」として「エタノール代謝」と「硝酸塩代謝」について、口腔マイクロバイオームはエタノールからのアセトアルデヒド産生活性だけではなくアセトアルデヒド分解活性を、硝酸塩からの亜硝酸塩産生活性だけではなく亜硝酸塩分解活性を持つことが明らかになった。このことは、口腔マイクロバイオームによる産生と分解のバランスが全身の疾患（アセトアルデヒドによる発がん性）及び健康（亜硝酸塩による高血圧予防）をコントロールしている可能性を示す。そこで、これらの産生と分解のバランスが何によって決定されるのかについて、口腔マイクロバイオームの細菌構成の違いや口腔環境の違い等に着目して、本研究を推進して行くこととした。

研究成果

• [国際共同研究] FISABIO Foundation(スペイン)
  • 国名: スペイン
  • 外国機関名: FISABIO Foundation
• [国際共同研究] 四川大学華西口腔医学院/香港大学(中国)
  • 国名: 中国
  • 外国機関名: 四川大学華西口腔医学院/香港大学
• [雑誌論文] Application of omics technologies in cariology research: A critical review with bibliometric analysis (2024)
  • 著者名/発表者名: Zhang J.S, Huang S, Chen Z, Chu C.-H, Takahashi N, Yu O.Y
  • 雑誌名: J Dent 巻: 141 ページ: 104801
  • DOI: 10.1016/j.jdent.2023.104801
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Electrochemical difference between single- and poly-crystalline LaF3 for a compact and low-price fluoride ion sensor (2024)
  • 著者名/発表者名: Kanda K, Yamada T, Yanagida Y, Kubota Y, Matsushita N, Mayanagi G, Washio J, Takahashi N
  • 雑誌名: Electroanalysis 巻: 36 ページ: e202300318
  • DOI: 10.1002/elan.202300318
  • 査読あり
• [雑誌論文] Green Tea-Derived Catechins Suppress the Acid Productions of Streptococcus mutans and Enhance the Efficiency of Fluoride (2023)
  • 著者名/発表者名: Han S, Washio J, Abiko Y, Zhang L, Takahashi N
  • 雑誌名: Caries Res 巻: 57(3) ページ: 255-264
  • DOI: 10.1159/000534055
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Chapter 11: Future Perspectives in the Study of Dental Caries. (2023)
  • 著者名/発表者名: Takahashi N.
  • 雑誌名: Monogr Oral Sci 巻: 31 ページ: 221-233
  • DOI: 10.1159/000530612
  • 査読あり
• [雑誌論文] In situ detection of endogenous proteolytic activity and the effect of inhibitors on tooth root surface (2023)
  • 著者名/発表者名: Sakurai I, Mayanagi G, Yamada S, Takahashi N
  • 雑誌名: J Dent 巻: 131 ページ: 104471
  • DOI: 10.1016/j.jdent.2023.104471
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Questionnaire survey on the satisfaction of SimEx dental education system (2023)
  • 著者名/発表者名: Hong G, Hung CC, Mayanagi G, Nishioka T, Sun L, Lai EH, Lan TH, Sasaki K, Takahashi N
  • 雑誌名: J Dent Sci 巻: 18(2) ページ: 840-847
  • DOI: 10.1016/j.jds.2023.01.028.
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Fluoride ion sensor based on LaF3 nanocrystals prepared by low-temperature process (2023)
  • 著者名/発表者名: Yamada T, Kanda K, Yanagida Y, Mayanagi G, Washio J, Takahashi N
  • 雑誌名: JOURNAL OF THE CERAMIC SOCIETY OF JAPAN 巻: 131(3) ページ: 31-36
  • DOI: 10.2109/jcersj2.22127
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Li C. Glycolysis-Related Gene Analyses Indicate That DEPDC1 Promotes the Malignant Progression of Oral Squamous Cell Carcinoma via the WNT/β-Catenin Signaling Pathway (2023)
  • 著者名/発表者名: Huang G, Chen S, Washio J, Paka Lubamba G, Takahashi N
  • 雑誌名: Int J Mol Sci 巻: 24(3) ページ: 1992
  • DOI: 10.3390/ijms24031992
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [学会発表] Propofol affected on the glucose metabolism in liver cells (2024)
  • 著者名/発表者名: Shiori Sasaki, Jumpei Washio, Haruki Otani, Shan Liu, Satoko Sato, Kentaro Mizuta and Nobuhiro Takahashi
  • 学会等名: The 102nd IADR General Session & Exhibition
  • 国際学会
• [学会発表] Nutritional conditions for cell growth affect anticancer drug sensitivity. (2024)
  • 著者名/発表者名: Ayano Igarashi, Jumpei Washio, Satoko Sato, Hiromitsu Morishima, Kensuke Yamauchi, Nobuhiro Takahashi
  • 学会等名: The 102nd IADR General Session & Exhibition
  • 国際学会
• [学会発表] 緑茶カテキンEGCGの抗菌効果について：齲蝕関連細菌と歯周病関連細菌の比較 (2023)
  • 著者名/発表者名: 樋口真由、安彦友希、鷲尾純平、髙橋信博
  • 学会等名: 第13回口腔保健用機能性食品研究会
  • 招待講演
• [学会発表] Profiling of microbiota of bottled beverages: storage under different temperatures (2023)
  • 著者名/発表者名: A. WAKUI, M. KAWACHI, Y. ABIKO, J. WASHIO, N.TAKAHASHI, T. SATO
  • 学会等名: The 71st Annual Meeting of Japanese Association for Dental Research
  • 国際学会
• [学会発表] Effects of butyrate on morphology and proliferation of OSCC cells (2023)
  • 著者名/発表者名: G. HUANG, J.WASHIO, H. OTANI, N. TAKAHASHI
  • 学会等名: The 71st Annual Meeting of Japanese Association for Dental Research
  • 国際学会
• [学会発表] Antimicrobial effect of green tea catechins on periodontal disease-associated bacteria (2023)
  • 著者名/発表者名: Mayu Higuchi, Yuki Abiko, Jumpei Washio, Nobuhiro Takahashi
  • 学会等名: The 71st Annual Meeting of Japanese Association for Dental Research
  • 国際学会
• [学会発表] 細胞増殖の栄養環境は、口腔がん細胞の増殖、糖代謝能、および抗がん剤感受性に影響する (2023)
  • 著者名/発表者名: 五十嵐彩乃, 鷲尾純平, 森島浩允, 山内健介, 髙橋信博
  • 学会等名: 第68回日本口腔外科学会総会・学術大会
• [学会発表] 細菌性代謝産物の酪酸が歯肉線維芽細胞の機能に与える影響 (2023)
  • 著者名/発表者名: 大谷 栄毅, 鷲尾 純平, 國富 葵, 佐々木 詩織, 大橋 一正, 山田 聡, 高橋 信博
  • 学会等名: 第66回秋季日本歯周病学会学術大会
• [学会発表] 改・口腔マイクロバイオームとわたしたちの健康 (2023)
  • 著者名/発表者名: 鷲尾純平
  • 学会等名: 第81回 東北大学歯学会
  • 招待講演
• [学会発表] 歯周病関連細菌に由来する酪酸が歯周組織細胞機能に与える影響 (2023)
  • 著者名/発表者名: 大谷 栄毅, 鷲尾 純平, 佐藤 聡子, 佐々木 詩織, 山田 聡, 高橋 信博
  • 学会等名: 第65回歯科基礎医学会学術大会
• [学会発表] 静脈麻酔薬プロポフォールが肝細胞の糖代謝活性に及ぼす影響 (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐々木 詩織, 鷲尾 純平, 大谷 栄毅, 佐藤 聡子, 水田 健太郎, 高橋 信博
  • 学会等名: 第65回歯科基礎医学会学術大会
• [学会発表] 口腔Actinomyces属及びSchaalia属の亜硝酸塩産生活性と活性に対する環境要因の影響 (2023)
  • 著者名/発表者名: 大竹 知菜, 鷲尾 純平, 安彦 友希, 五十嵐 薫, 高橋 信博
  • 学会等名: 第65回歯科基礎医学会学術大会
• [学会発表] 口腔マイクロバイオームは発がん性物質アセトアルデヒドの分解にも関与する アセトアルデヒド産生能・分解能の簡易スクリーニング法の確立 (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐藤 知佳, 互野 亮, 鷲尾 純平, 安彦 友希, 五十嵐 薫, 高橋 信博
  • 学会等名: 第65回歯科基礎医学会学術大会
• [学会発表] 歯周病菌由来酪酸の増殖・代謝抑制作用は正常細胞とOSSC細胞で異なる(Inhibitory effects of periodontal pathogen-derived butyrate on proliferation and metabolism differ between normal and OSSC cells) (2023)
  • 著者名/発表者名: Huang Guangzhao, Washio Jumpei, Otani Haruki, Sato Satoko, Takahashi Nobuhiro
  • 学会等名: 第65回歯科基礎医学会学術大会
• [学会発表] A new perspective on the biochemical and ecological characteristics of fungi. - How do they survive in the anaerobic environment of the oral cavity? - (2023)
  • 著者名/発表者名: Haneen Raafat Fathi Mousa, Yuki Abiko, Jumpei Washio, Nobuhiro Takahashi
  • 学会等名: 第65回歯科基礎医学会学術大会
• [学会発表] 口腔細菌に対する緑茶カテキンの抗菌効果 (2023)
  • 著者名/発表者名: 樋口真由, 安彦友希, 鷲尾純平, 高橋信博
  • 学会等名: 『革新的食学拠点』令和5年度第3回合同ミーティング
  • 招待講演
• [学会発表] Profiling of the Microbiota on the Surfaces of Non-woven Fabric Masks after Wearing and Smartphone Touchscreens (2023)
  • 著者名/発表者名: Anna Wakui, Miho Kawachi, Nanase Takahashi, Takashi Abe, Shingo Maruyama, Nagara Kaku, Misato Miyazawa, Aya Sato, Manami Imai, Hikaru Arai1, Kaori Tanaka, Yuki Abiko, Jumpei Washio, Nobuhiro Takahashi, Takuichi Sato
  • 学会等名: Interface Summer Seminar 2023
  • 国際学会
• [学会発表] Profiling of the Microbiota in the Remaining Green Tea Drinks in Plastic Bottles (2023)
  • 著者名/発表者名: Miho Kawachi, Anna Wakui, Nagara Kaku, Nanase Takahashi, Misato Miyazawa, Takashi Abe, Aya Sato, Manami Imai, Hikaru Arai, Haruna Sato, Yuki Kato, Rika Okabe, Yuka Naruse, Nao Sato, Kaori Tanaka, Mayu Higuchi, Yuki Abiko, Jumpei Washio, Nobuhiro Takahashi, Takuichi Sato
  • 学会等名: Interface Summer Seminar 2023
  • 国際学会
• [学会発表] ヒト母乳と新生児口腔細菌叢との関連 (2023)
  • 著者名/発表者名: 涌井杏奈，河内美帆，安彦友希，鷲尾純平，高橋信博，佐藤拓一
  • 学会等名: 『革新的食学拠点』令和5年度第2回合同ミーティング
  • 招待講演
• [学会発表] Oral Neisseria and nitrate suppress pH-decrease in the oral microbiome (2023)
  • 著者名/発表者名: Jumpei Washio, Kazuko Ezoe, Satoko Sato, Yuki Abiko and Nobuhiro Takahashi
  • 学会等名: The 101st IADR General Session & Exhibition
  • 国際学会
• [学会発表] 細菌代謝産物「酪酸」がヒトの健康に及ぼす影響 ?口腔内と腸内では異なるそのイメージ- (2023)
  • 著者名/発表者名: 大谷栄毅, 鷲尾純平, 佐藤聡子, 山田聡, 髙橋信博
  • 学会等名: 『革新的食学拠点』令和5年度第1回合同ミーティング
  • 招待講演
• [学会発表] 緑茶カテキンの歯周病関連細菌に対する抗菌作用：アミノ酸代謝活性抑制および菌体凝集作用について (2023)
  • 著者名/発表者名: 樋口真由，安彦友希，鷲尾純平，高橋信博
  • 学会等名: 第72回日本口腔衛生学会学術大会
• [学会発表] ペットボトル飲料物の保管に関する食品科学的・細菌学的研究 (2023)
  • 著者名/発表者名: 河内美帆，涌井杏奈，賀来ながら，高橋七瀬，宮沢美里，佐藤 彩，阿部峰士，今井真奈美，佐藤遥菜，加藤優希，岡部璃佳，成瀬悠香，佐藤奈緒，鷲尾純平，佐藤拓一
  • 学会等名: 第72回日本口腔衛生学会学術大会
• [学会発表] 搾乳母乳と新生児口腔内細菌叢との連関 (2023)
  • 著者名/発表者名: 涌井杏奈，河内美帆，佐野拓人，坂下玲子，鷲尾純平，高橋信博，佐藤拓一
  • 学会等名: 第72回日本口腔衛生学会学術大会
• [学会発表] ミニシンポジウム５：口腔マイクロバイオームの復元力（レジリエンス）から考える新たな齲蝕予防戦略 (2023)
  • 著者名/発表者名: 高橋信博
  • 学会等名: 第72回日本口腔衛生学会学術大会
  • 招待講演
• [学会発表] 口ミニシンポジウム５：腔マイクロバイオームの酸産生抑制代謝産物（硝酸塩・亜硝酸塩代謝） (2023)
  • 著者名/発表者名: 鷲尾純平
  • 学会等名: 第72回日本口腔衛生学会学術大会
  • 招待講演
• [図書] 歯科衛生学辞典第2版 (2024)
  • 著者名/発表者名: 眞木吉信ほか
  • 総ページ数: 20
  • 出版者: 永末書店
  • ISBN: 978-4-8160-1439-0