研究課題/領域番号 |
21H03174
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪医科薬科大学 |
研究代表者 |
伊藤 ゆり 大阪医科薬科大学, 研究支援センター, 准教授 (60585305)
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研究分担者 |
澤田 典絵 国立研究開発法人国立がん研究センター, 社会と健康研究センター, 室長 (00446551)
東 尚弘 国立研究開発法人国立がん研究センター, がん対策情報センター, 部長 (10402851)
小村 和正 大阪医科薬科大学, 医学部, 講師 (10789853)
藤阪 保仁 大阪医科薬科大学, 医学部, 特別職務担当教員(教授) (50411369)
鈴木 久美 大阪医科薬科大学, 看護学部, 教授 (60226503)
谷口 高平 大阪医科薬科大学, 医学部, 講師 (70779686)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | がんサバイバーシップ |
研究実績の概要 |
本研究では①がん登録やDPC、レセプト情報、診療情報、看護記録など既存の複数の医療系データベースを個人IDのリンケージにより研究利用可能な形式として再構築し、②従来収集できていなかった患者の診断・治療中~後の主観的情報や生活習慣を患者が入力できるモバイルツールを開発し、経時的に収集することで、Patient Journeyの各段階の課題を定量化できる多次元データベースを構築し、解決策を提示するための基礎・臨床・疫学・看護の橋渡し研究を行うことを目的としている。 2021年度は大阪医科薬科大学の院内がん登録データとDPCをリンケージし、乳がん、消化器がん、肺がんに関して、居住地に基づく社会経済指標と予後との関連についての分析を行った。また、バイオバンク事業に同意した患者の生活習慣アンケートに関し、未回収対象者へ郵送による提出勧奨を行い、全体で回収率が45%となり約2400件のデータベースとなった。 また、JPHCスタディのデータを用いて、約20000人のがんサバイバーデータの分析に着手した。診断前後の生活習慣がその後の予後(Conditional survival)にどのように影響を与えるかを分析している。住民ベースのがん登録情報の長期予後データとの比較研究なども視野に入れている。患者体験調査のデータを用いて、患者の就労継続や経済的な理由による治療変更などに影響を及ぼす要因を分析した。 診断・治療中~後の主観的情報の収集に関しては、文献等の検討に基づき進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は大阪医科薬科大学の院内がん登録データとDPCをリンケージし、約38000件のデータセットを構築した。乳がん、消化器がん、肺がんに関して、居住地に基づく社会経済指標と予後との関連についての分析を行った。居住地の困窮度の高いエリアの患者ほど早期診断割合が低く、喫煙者や合併症が多かった。それらの要因を補正しても困窮度の高いエリアの患者の予後が悪いがん種もあった。 バイオバンク事業に同意した患者の生活習慣アンケートの回収率は約15%程度であったが、未回収対象者へ郵送による提出勧奨を行ったところ、全体で回収率が45%となり全体で約2400件のデータベースとなった。 JPHCスタディのデータを用いて、約20000人のがんサバイバーデータの分析においては約20000人のがん診断例があり、これらの患者と性年齢によりマッチングした非がん者を用いて、生活習慣や居住地による困窮度の影響などを分析した。また、非がん者とがん経験者とで予後が同じになる時点の分析などを住民ベースのがん登録も用いて分析を行っている。患者体験調査のデータを用いて、患者の就労継続や経済的な理由による治療変更などに影響を及ぼす要因を分析した。就労継続においては女性で非常勤雇用の者、化学療法を実施したものが、継続しにくい傾向があった。経済的な理由による治療変更については若年層で多く、さらなる要因分析を行い、論文にまとめる。 診断・治療中~後の主観的情報の収集に関しては、がん診療連携拠点病院における苦痛のスクリーニングの分析を行った。社会的な苦痛のスクリーニングの実施割合が若干低いことが分かった。主観的情報の収集に関する項目検討はまだ着手できていないため、今後看護分野とも連携し、文献等の検討に基づき進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
大阪医科薬科大学の院内がん登録およびDPCデータをリンケージしたデータセットを用いて、各がんについて、臨床医とともに詳細の分析を進めていく。特に、十分なエビデンスがない、患者の社会的背景に着目した分析を進めていく。また、既存情報では収集できていないが患者の予後やQOLに影響を与える要因を収集するシステムを検討する。当院の苦痛のスクリーニングに関しても、データベース化されているため、融合データセットへの組み込みを検討し、QOLや予後との関連分析を行う。 バイオバンク事業の生活習慣アンケートについてはスマートフォンなどからの入力が可能となったため、対象者に積極的に入力を促し、データベースの拡充を目指す。また、2400件のデータを用いて、患者背景や生活習慣などに関する粗解析を開始し、臨床疫学研究への活用を提案する。 JPHCスタディのがんサバイバーデータによる分析は、がんと診断された後の生活習慣によって、その後の予後が変化するのかを表現できるような解析結果の提示を行う。特に、一般集団と同じ死亡リスクに到達するのは喫煙者では〇〇年、非喫煙者では〇〇年というような表現で、診断後の生活習慣の影響がわかりやすい提示方法を検討する。 患者体験調査に関しては、患者の人生のアウトカムの一つでもある就労継続や経済的困難の回避などにどのような背景因子が影響するのかについて明らかにし、がんになっても安心して暮らせる社会づくりに貢献するエビデンスを創出する。 QOLやPROを計測するシステムはあるものの、項目設定に際し、先行研究による吟味が必要である。臨床医や看護分野と協働して研究課題に即した項目設定を検討する。
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