研究課題
パーキンソン病(Parkinson disease: PD)では、記憶障害がみられることが稀ではない。しかし、前頭葉機能が保たれているPD患者では、手がかり刺激を与えることで正答できる場合がある。こうした患者では記銘力が保持されていることが推定され、想起過程を強化することで、記憶障害が軽減できる可能性がある。そこで本研究では、PDの軽度認知障害(PD with mild cognitive impairment: PD-MCI)患者を対象として、記憶障害が前頭葉機能によって代償される機構を解明する。今年度は、先行する疫学研究と同様、京都大学医学部附属病院受診中のPD患者群でも記憶障害の頻度が高いことを確認した。PD-MCIでHopkins Verbal Learning Test Revisited (HVLT-R)による30分後の遅延再生記憶が障害されていた患者のうち、約半数は前頭葉機能が保たれていた。このグループの患者は遅延再生後に手がかり刺激を与えると、認知機能が保たれたPD (PD with cognitively normal: PD-CN)患者とほぼ同程度の正常レベルの正答率を示した。今後はまず、PD-CN患者に手がかり刺激を与えた際に賦活される前頭葉領域を同定する。その上で、その領域を利用すべき脳内ネットワークの見本とし、神経画像ガイド下で同じネットワークを動員する遂行方略について検討する。そして、この方略を認知トレーニングで訓練して修得するリハビリテーションを開発することで、記憶障害の軽減を目指すことができないか、検討していく。この手法は、認知予備能の神経機構の解明にも寄与し、予備能を活用した新たな認知機能の改善戦略の創造につながる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、先行する疫学研究と同様、京都大学医学部附属病院受診中のPD患者群でも、遂行機能障害や作業記憶障害など前頭葉機能の障害と並んで、記憶障害の頻度が高いことを確認した。PD-MCIでHopkins Verbal Learning Test Revisited (HVLT-R)による30分後の遅延再生記憶が障害されていた患者のうち、約半数は前頭葉機能が保たれていることを示した。さらに、このグループの患者は遅延再生後に手がかり刺激を与えると、認知機能が保たれたPD-CN患者とほぼ同程度の正常レベルの正答率を示す結果を得た。先行する研究から、認知予備能の脳内基盤として、前頭葉が重要な役割を果たす可能性が指摘されてきた(Barulli et al., Trends Cogn Sci 2013)。その神経機構は十分には明らかにはなっていないが、機能が保たれた脳領域の代償的な動員が関与するというNeural Compensationの機序が、仮説の一つとして提案されている。本研究の結果は、PD-MCI患者の記憶障害が、前頭葉の代償的な動員によって軽減する可能性を示唆しており、認知予備能の脳内基盤として、前頭葉が働いている可能性を示唆しているものと考えられた。
1) 認知トレーニング法の開発:神経画像ガイド下で、記銘時に言語による精緻化を活用して前頭葉を動員する遂行方略と、その方略を修得する認知トレーニングを検討する。認知トレーニングプログラムは、高齢者の認知機能を改善することが科学的に示されているPosit science社のBrain HQあるいはCognifitなども選択肢とする (Shah et al., Neuropsychol Rev 2017)。個人による反復練習を可能にするプログラムを目指す。Brain HQの記憶トレーニングであるMind’s eyeは、複数のドットが同一方向に動く画像を連続して提示し、その移動方向を順に記憶していく課題である。健常高齢者を対象としてこれらの課題を実施し、記銘の際に言語化を行うことで、BA6とBA45/47が賦活されると共に記憶課題の正答率の改善が観察されるか検討する。少数例のPD-MCI患者でも、同様の現象が観察できるか検討する。また、Brain HQの他の6種類の記憶トレーニングでも検討を行う。2) 介入方法の検討:個人による反復練習をどの程度の頻度で行うのか、適切な遂行方略をとるための作業療法士による介入をどの程度の頻度で行うのか、神経画像による前頭葉の賦活の確認をどの程度の頻度で行うのかを検討する。
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