研究実績の概要 |
1)ケトン体と寿命:野生型マウスに比し、全身でケトン体産生が欠失するHmgcs2欠損マウスは短命であり、その寿命の短縮は1,3-ブタンジオール(β-OHB前駆物質)の投与により回復した。また、24週齢からの野生型マウスに対する長期1,3-ブタンジオール投与もまた、寿命短縮をもたらしたことから、哺乳類の寿命においては、血中ケトン体濃度の消失、過上昇いずれも有害であることが明らかとなった。一方、72週齢の野生型マウス、ApoE欠損マウスといった、老化や動脈硬化の病態モデルに対する1,3-ブタンジオール投与は寿命延長をもたらしたことから、ケトン体は何らかの臓器障害がある個体において、臓器保護的に働く可能性が示唆された。 2)ケトン体のmTORC1シグナルへの効果:近位尿細管特異的Tsc1欠損マウスは高度尿細管障害により4-5週で死亡するが、1,3BD食群では腎腫大・尿細管障害の改善を認め、生存期間が延長した。ポドサイト特異的Tsc1欠損マウスは高度蛋白尿を呈し、5-8週で死亡したが、1,3BD食群では、蛋白尿の改善は見られないものの、生存期間の延長を認めた。骨格筋特異的Tsc1欠損マウスは筋萎縮を認め、3-5週で死亡し、1,3BD食による表現系の改善は認められなかった。膵β細胞特異的Tsc1欠損マウスはβ細胞の腫大、耐糖能の改善を認めたが、1,3BD食では表現型の改善は認めなかった。肝臓特異的Tsc1欠損マウスでは既報にある肝細胞癌など明らかな表現系は認めなかったが、1,3BD食群でmTORC1シグナルの抑制は確認された。 以上のことからケトン体によるmTORC1抑制効果は臓器特異性があり、とくに腎近位尿細管および肝臓において、mTORC1過剰亢進の抑制を介したケトン体の臓器保護効果が期待できることが明らかとなった。
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