研究課題
①ケトン体産生障害マウスは短命になること、高齢マウスに対するケトン体供給が健康寿命延伸をもたらしうることが明らかとなった。カロリー制限で増加するケトン体上昇が寿命制御に関わることを世界で初めて証明した。②ケトン体産生の主な臓器は肝臓であるが、今回実施した絶食、非絶食状態での腎臓scRNAseq解析により腎臓の近位尿細管細胞にもケトン体産生能を有することが示された。その役割を検討するため、近位尿細管細胞特異的なCreマウス(SLC34a1Creマウス)とケトン体産生律速酵素のHMGCS2-floxマウスをかけ合わせ、近位尿細管特異的HMGCS2ノックアウトマウス(PTC-HMGCS2-KOマウス)を作製した。メタボローム解析により、絶食で増加する腎臓内のケトン体濃度はPTC-HMGCS2-KOマウスで有意に減少することが確認された。WTマウスとPTC-HMGCS2-KOマウスにおいて、絶飲食下で蓄尿を行い、尿量および尿電解質を測定した結果、PTC-HMGCS2-KOマウスはWTマウスと比べて、特異的な尿電解質異常を伴う尿量の増加を認めた。これらの変化は肝臓特異的HMGCS2欠損マウスでは確認されなかった。この結果は腎臓局所のケトン体産生が絶食時の体液管理に関わるという新たな生理機能の解明につながることが期待される。③その他臓器(白脂肪細胞、褐色脂肪、骨格筋、小腸上皮、ポドサイト)でのケトン体産生の役割の解明のため、各種臓器特異的HMGCS2欠損マウス、各種臓器特異的Hmgcs2過剰発現マウスの作製を進めている。その中の一つ、ポドサイト特異的HMGCS2過剰発現マウスでは糖尿病状態での尿蛋白の増加が抑制されることが確認されている。④ケトン体による臓器保護の観点からその分子機序の解明を行い、scRNAseqよりmTORC1シグナル抑制に関わる新規メカニズムを同定した。
2: おおむね順調に進展している
各マウスモデルの作製が順調に進み、その解析も進んでいる。その中のいくつかのモデルでは健康寿命に関わる表現系の異常が見られており、仮説を証明する結果が得られつつある。
①腎近位尿細管細胞におけるケトン体産生の意義の解明として、現在得ている腎臓の表現系の分子機序の解明を進める。すでに実施済みのメタボローム解析の結果からその候補分子の同定を進める。②腎近位尿細管細胞におけるケトン体産生の低下が体液喪失とサルコペニアを呈するモデルになる可能性を得ている。このマウスの血清、尿のメタボローム解析を行い、老化(フレイル)のマーカーを探る。③ポドサイト特異的HMGCS2過剰発現マウスの腎保護メカニズムの解析を進める。④現在作製中の各臓器SCOT欠損マウス、各臓器HMGCS2-TGマウスの機能解析を進める。⑤ケトン体による臓器保護機構の解明を継続する。老化や代謝疾患に深く関わるmTORC1シグナルとの関連に関してscRNAseqから同定した種々の遺伝子の役割を解明する。
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