研究課題/領域番号 |
21H03378
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中台 枝里子 (鹿毛枝里子) 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 教授 (40453790)
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研究分担者 |
山口 良弘 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (00737009)
大谷 直子 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (50275195)
和田 崇之 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 教授 (70332450)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 分散接着性大腸菌 / 炎症性サイトカイン / 炎症抑制 / プロバイオティクス |
研究実績の概要 |
腸内細菌叢はさまざまな疾患の発症と増悪に関与する一方で、正常な生理機能維持や健康増進、病態緩和にも深く関わることが、急速に明らかになりつつある。これまでに、小児下痢症の原因菌の一つとして考えられている分散接着性大腸菌 (Diffusely Adherent E. coli, DAEC) が下痢症患者だけでなく健康者からも分離されること、炎症反応を誘発する菌株だけでなく、逆に抑制する菌株が存在することを発見した。炎症抑制株の1つであるSK1144は、その炎症抑制能が特に優れていることから、本研究ではSK1144株を中心に検討を進めている。遺伝子ノックアウトおよび補完実験から、VI型分泌装置の構成タンパク質の一つであり、エフェクターとしての機能も報告されているHcpを候補の一つとして見出している。 今年度は、精製したHcpを培養細胞にマイクロインジェクション、またはトランスフェクションにより導入し、炎症性サイトカイン抑制がみられるか否か検証した。しかし予想に反して炎症性サイトカイン抑制はみとめられなかった。Hcpの他にも因子が想定されるため、SK1144にトランスポゾンTn5をランダムに挿入した変異株ライブラリを作製し、炎症抑制機能を喪失した変異株をスクリーニングした。その結果、炎症抑制機能を完全/部分的に喪失した29株を得た。トランスポゾン挿入部位を決定し、炎症抑制に関わる遺伝子群を同定することに成功した。さらに炎症抑制株と非抑制株を複数取得し、全ゲノムシーケンスを行い、遺伝的背景の共通点と相違点を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はトランスポゾン挿入株の作製や炎症抑制能を指標にしたスクリーニング、挿入部位の同定について、当初の計画以上に進展させることができた。具体的には、炎症抑制機能を喪失した変異株を29株を得て、全てのトランスポゾン挿入部位を決定することに成功した。また精製したHcpを培養細胞にマイクロインジェクション、またはトランスフェクションにより導入し、炎症性サイトカイン抑制の有無を検討するなど、細胞レベルでの検証も順調に進んだ。一方で、動物実験による検証については概ね計画通りに遂行されているが、未検証の課題も残されている。
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今後の研究の推進方策 |
まず大腸菌遺伝子改変などの分子遺伝学的手法や培養細胞系による生化学的・細胞生物学的手法を駆使して、炎症抑制の菌側抑制因子および宿主側標的因子の同定を目指す。先行して研究を進めているSK1144株以外にも炎症抑制性DAECを健康者から多数分離しており、これらの比較ゲノム解析から炎症抑制に関わる分子実体に迫る。次に、上記で同定された炎症抑制因子に基づいて分子疫学マーカーを開発する。炎症抑制性DAECは下痢症の疫学調査の過程で健康者から偶然発見されたものであり、正確な保菌率については明らかでない。健康者における保菌状況が判明すれば、炎症抑制性DAECによる腸内環境の安定化の意義や、炎症性腸疾患の発症や病態進展と本菌との相関が明らかとなる可能性がある。最後に、腸炎や感染症の動物モデルを用いて、in vitro実験および疫学的調査により得られた知見の検証を行う。
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