研究課題
超高齢化社会においては、運動器の健康を維持することは重要なことであるが、近年、骨粗鬆症とサルコペニア(筋委縮症)の合併症である骨サルコペニアという症状が報告されている。したがって、骨と骨格筋を包括的に治療する革新的な方法の開発が求められている。本研究では、脂質代謝に関連する核膜脱リン酸化酵素1が運動器の恒常性を維持する分子メカニズムを解明するとともに、新たな疾患である骨サルコペニアの診断・治療法の分子基盤の確立を目指し、研究を開始した。本年度の研究においては、核膜脱リン酸化酵素1による運動器恒常性維持機構の解明を実施した。2ヶ月齢に到達してから、核膜脱リン酸化酵素1を全身性に欠損させたマウスは、1月以内に、急速に体重減少、筋力減少、骨量減少の表現型を示した。骨格筋量は減少したが、骨格筋組織に組織学的異常は認められなかった。RNA-seq解析により、筋萎縮マーカーの発現が上昇する傾向にあった。骨組織の表現型に関しては、in vitro破骨細胞分化誘導系において、核膜脱リン酸化酵素1欠損により、破骨細胞分化が顕著に亢進していたので、骨量減少は、少なくとも部分的には、破骨細胞分化亢進によると示唆される。遺伝子発現解析から、核膜脱リン酸化酵素1欠損により、マクロファージの分化も亢進していることが示唆された。脂肪量に関しては、皮下脂肪、褐色脂肪、内臓脂肪、すべて、顕著に減少していた。以上の結果より、核膜脱リン酸化酵素1を欠損させることにより、急速に、脂肪萎縮症、骨粗鬆症、サルコペニアが発症することが示唆され、核膜脱リン酸化酵素1が、運動器および脂肪という健康を維持する器官において、重要な役割を果たしていることが示された。
2: おおむね順調に進展している
現在、遺伝子改変マウスに多様な表現型を見出しており、着実に解析を進めているため。
本年度は、骨格筋、骨、脂肪に着目し、トランスクリプトーム解析を実施することにより、異常になっているシグナル伝達経路を同定する。そして、それらのシグナル伝達を制御する薬物を投与することにより、本マウスの病状を回復させることができるかに挑戦する。これにより、骨、筋、脂肪を同時に制御するシグナル伝達経路を同定し、骨粗鬆症とサルコペニアを同時に治療できる手法の分子基盤の確立を目指す。また、組織特異的遺伝子改変マウスを作出することにより、各組織の詳細な解析を実施する。さらに、核膜脱リン酸化酵素1の作用機序を解明するために、核膜脱リン酸化酵素1と相互作用する分子の同定および脂質代謝との関連性の解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
Stem Cell Research
巻: 61 ページ: 102744~102744
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