アルゴリズム設計において,乱択化(randomization)は理論的にも実用上も不可欠な基本技法である.本課題は,「ランダムネスは計算にどのように寄与するか?」という問いに対し,とくに計算効率に焦点を当てた理論発展を目的とする.決定性計算を決定性過程と捉え,同様に乱択計算を確率過程と捉えて,決定性過程と確率過程の対比をもってランダムネスの計算効率への寄与を測る点が本課題の特色である.この目的に沿って,決定性過程と確率過程を対比する技術の開発,この技術に関連する応用または基礎研究に取り組み,また,計算効率にとどまらない乱択計算論の新展開も目指す. カオス系列の計算量に焦点を当て,とくに空間計算量の研究を推進した.テント写像は区分線形関数で反復写像の系列がカオス系列となることで著名である.カオス系列の重要な特徴づけの一つに初期値鋭敏性がある.初期値のわずかな違いが反復を繰り返すごとに増幅する性質で,カオス系列の示す予測不能性とも呼ばれる.たとえば,xのn回反復写像は1/2より大きいかどうかについて,線形より小さなオーダーで計算可能であろうか,というのがひとつの問いである.この問いに関して,o(log^2 n)の期待計算領域で正確に計算できることを示した. このほか,成長するグラフ上のランダムウォークの再帰性の条件について研究して成果を得た.また,成長するグラフ上のランダムウォークの研究や,対数優モジュラ分布上のサンプリングに関する研究について国際研究集会等で講演した.
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