研究課題/領域番号 |
21H03425
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
林 幸雄 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (70293397)
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研究分担者 |
長谷川 雄央 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (10528425)
田中 敦 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (30236567)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ネットワーク科学 / 頑健性 / 代替経路 / 逆優先的選択 / 自己修復 / 連鎖的過負荷故障 |
研究実績の概要 |
近年の統計物理学の知見等から、ネットワークの基本機能である連結性は、木構造に一旦なってしまうと脆く、逆に木構造になりにくい程、耐性が強いことが理論的に示唆されている。そこで、従来の場当たり的な対処ではなく、より良い(レジリエンス:しなやかな復活力を持つ)ネットワークの再構築を目指す科学的根拠を探るべく、いかなる故障や災害に遭遇しても、出来る限り木構造にならない為にループを強化するには、どんな構築や修復が望ましいかを明らかにする。 初年度で、ループに関連する代替経路の実用的な計数法を提案し、攻撃耐性強化の鍵となる最小次数ノード結合の妥当性を数値的に明らかにした。今年度は更に以下の成果を得た。
・国内の基幹通信網や(災害時等における物資輸送のための陸続きの)EU国間ネットワークを対象に、災害や攻撃等で途切れた経路の代替として機能できる非交差経路の組合せ数を、数理物理学における無閉路有向グラフに対する経路和行列法で実用的に求められることを示した(国際学術論文誌1件、国際会議1件)。 ・既存の構造を保持したまま、出来るだけ攻撃耐性を強化できるリンク追加法として個別に考えられきた、遠距離ノード結合と最小次数ノード結合の役割を明らかにし(国際学術論文誌1件、国内研究会1件)、母関数による理論解析の糸口も掴んだ(国内研究会1件)。さらに、最小次数ノード結合を含む逆優先的選択による次数分布の連続変化で結合耐性と通信効率を両立させ(国際学術論文誌1件)、分布幅の最小極限のレギュラー構造の最適性を見出した(国際会議1件)。 ・空間的な攻撃に対しての最小次数ノード結合の、攻撃耐性や自己修復法の効果(国際会議1件、国内研究会2件)、連鎖的な過負荷故障への強固な耐性を数値的に調べた(国内研究会1件)。また、ネットワーク構造と関連した感染症や情報伝搬への応用も試みた(国際学術論文誌2件、国内研究会1件)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度は主に、自己修復の分散アルゴリズム化や、次数分布の連続変化による頑健性強化の基本的性質を明らかにしてきた。それらを基に今年度は、典型的な次数順攻撃から空間攻撃に拡張した際の自己修復の耐性分析や、(現実の多くのネットワークに共通して存在する)べき乗次数分布から指数分布を経てより幅が狭い分布の中で(鎖状構造等の無いランダム結合で次数分布のみの影響として)、最小極限の場合が攻撃への最適耐性を示すことを見出し、リンク追加としては最小次数ノード結合が頑健性向上に本質的に寄与することを明らかにした。また、成長モデルのネットワーク生成規則として逆優先的選択を考案し、その成長で頑健性と通信効率を両立させるには、鎖状なO(N)のループを生成させないよう極少量のランダム結合が必要なことが分かってきた。 さらに、頑健性向上は当初の予想通り、ループ強化と密接に関連して、木構造になりにくい最小フィードバック頂点集合を大きくすることも数値的に示すことができた。但し、木構造へのなりにくさを測るだけでもNP困難な問題であり、未解決な点は残る。例えば、O(log N)にループ長を留める必要性を予想はするものの、難問である。感染症や情報伝搬への応用としては、結合構造に関連した特性分析をいくつか行った。 一方、別のNP問題である非交差経路の組合せ数を厳密に求めることは実際上は不可能で、従来は難解なグラフ理論に基づく多項式オーダーの解法の存在性のみが議論され、実用的なアルゴリズムは皆無であったが、本研究により近似的ではあるが、効率良く求められることを示せた。また、複数の代替路の存在は、連鎖的な過負荷故障への耐性強化にも有効なことを確認した。
これらの成果は、国際学術論文5件、国際会議予稿集2件と口頭発表1件、書籍1冊、国内研究会発表6件としてまとめることができた。以上から、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、うまく分担して良好な研究メンバーの強力関係を維持しつつ、未発表の内容で、有効性を示す結果が部分的に得られているものを学術論文等にしていくことを目指す。
また、世界的なCOVID-19の蔓延による海外渡航や国内移動への制限が何とか緩和されていく見込みであることから、今後は国内外への学会参加等を積極的に行っていきたい。
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