研究課題/領域番号 |
21H03542
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西野 美都子 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (30510440)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 多剤耐性菌 / 機械学習 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
多剤耐性菌の出現は世界的な問題であり、感染症を克服することは、今日も医学的重要課題の一つである。耐性菌が出現するメカニズムを理解し、それらを抑制する手法を開発することは急務であり、病院検査室等においても簡便かつ迅速な多剤耐性菌検出法の開発が求められている。本研究では多剤耐性菌について耐性化過程で生じる遺伝子的、形態学的変化を網羅的に解析しオミクス情報を取得する。機械学習によるこれらの情報の融合とモデル化を行い、人工知能(AI)による薬剤耐性能自動判別技術基盤を構築する。本年度は、作用機序の異なる4種の薬剤(エノキサシン、アミカシン、セフィキシム、クロラムフェニコール)に対する耐性株について、まず光学顕微鏡を用いた観察を行った。その結果、いずれの耐性株も耐性を持たない親株と比較して形態変化していることが明らかとなった。その中で、最も大きな形態変化を起こしていたエノキサシン耐性株について、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてより詳細な観察を行った。エノキサシン耐性株は親株と比較して主に外膜構造に違いがあることが示唆された。続いて、近年、発展が目覚ましい機械学習を用い、コンピュータ上でエノキサシン耐性株と親株が識別できるか検討した。1万枚以上のTEM画像から細胞の一部を含むパッチを100万枚作成し、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いてパッチの識別を行いその結果から元画像の株を推定した。3分割交差検証によるモデルの頑健性を評価した結果、0.9以上の高い精度でエノキサシン耐性株と親株を判別すことに成功した。さらに、Grad-CAM法を用いて判別の根拠となった領域を可視化した結果、エノキサシン耐性株では主に外膜領域が発火していた。ピアソン相関係数により画像特徴と遺伝子発現データとの相関を求めた結果、lpp等、複数の膜の構成に重要な遺伝子が高い相関で見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
深層学習は昨今発展が目覚ましい機械学習法の一つであり、コンピュータ上のAIで画像認識や識別を行い、多量のデータから統計的に共通する特徴を高精度に抽出することが可能になってきている。透過型電子顕微鏡(TEM)画像は、極めて高い解像度で生物試料を可視化することができるものの、ノイズが大きいことから高精度な判別が困難であった。そこで、先端的固定法である急速凍結法を用いて薬剤耐性菌株の試料作成を行なった結果、細胞構造が良好に保持されたTEM画像を多量に取得することに成功した。さらに、画像についてCLAHEなどの前処理を行うことでノイズの問題が軽減された。これらの結果、0.9以上の高い精度で耐性菌画像判別に世界で初めて成功した。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者はこれまでの観察により、獲得された10種類の異なる抗生剤の耐性株の多くが耐性を持たない親株と比較して形態学的に異なる特徴を有していることを見出した。親株と比較して形状が丸くなったものや、外膜構造が変化しているものがあった。そこで、今後は様々な薬剤耐性菌株について、電子顕微鏡画像を取得し深層学習による判別と特徴抽出を行う。さらに、画像特徴と相関の高い遺伝子の紐付けをより詳細に行うために、電子線トモグラフィー法を用いて耐性株の3次元的情報を取得する。光学顕微鏡を用いて生きた状態の薬剤耐性株の画像を取得し、深層学習判別による高精度な画像判別法を確立する。光学顕微鏡による画像判別に成功すれば、臨床の現場で簡便かつ迅速な耐性菌の検出に役立つことが期待できる。
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