研究実績の概要 |
ゲノム中の転写領域では、R-loop構造とよばれるDNA-RNAハイブリッド二重鎖と一重鎖DNAからなる特殊な核酸構造を起点としてDNA二重鎖切断(DSB)を正確に修復する。これまでに我々のグループは、S/G2期において転写共役型相同組換え修復がこれらのDSBを正確に修復していることを明らかにしてきた(Yasuhara et al. Cell 2018)。しかしながら、静止期においてこれらのDSBがどのように修復されているかについては分かっていなかった。転写共役型DSB修復に関連する新た な因子として、データベースを用いたスクリーニングから、ユビキチン鎖に結合する分子RAP80を同定した。RAP80欠損細胞ではR-loop構造の不安定化によるゲノム異常の増加が示唆されたため、一重鎖DNA部位の挙動の追跡を行った。その結果、RAP80欠損細胞ではR-loop内の一重鎖DNA部位が不安定化していることが判明した。つまり、RAP80が一重鎖DNAの安定化に寄与することが示された。また、このRAP80によるR-loopの安定化は、特に細胞周期のG1期においてBRCA1, Polθ, LIG1/3などが関与する転写共役型末端結合(TA-EJ)を誘導し、DSBを迅速に修復していることが明らかとなった。これらのことから、転写活性化部位に生じたDSBはR-loopを誘導するが、R-loop内の一重鎖DNAはRAP80の機能によってヌクレアーゼから保護され、TA-EJが転写活性化部位のゲノム安定性に重要な役割を果たしているというモデルが考えられた(Yasuhara et al. Cell Rep 2022)。 今年度は転写共役型DSB修復に関連する因子のスクリーニングと、RAP80をDSB部位へ誘導する因子の同定を目指して研究を進めた。
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