研究課題
放射線被ばくによるがんリスクの遺伝的個人差はよくわかっていない。BRCA遺伝子変異は、保持者が比較的多く、がんリスクへの影響が大きく、放射線が作るDNA損傷の修復にも関係する。BRCA1変異のラットモデルにおける放射線がんリスクの機序を解明して予防法の基盤とするため、本年度は、同ラット及び野生型ラットを照射し、経時的に乳腺組織を採取した。また、DNA二重鎖切断の免疫染色条件を決定した。定量RT-PCR解析により、同ラットの乳腺腫瘍及び正常組織においてBrca1野生型アリルの発現量の減少が高々50%減であることを見いだし、エピジェネティックな発現抑制ではなくハプロ不全ががん発生の原因となっている可能性を示唆した。加えて、同ラット及び野生型ラットの乳がんゲノムDNAの全エクソーム解析を各2検体において実施したところ、同ラットではBrca1正常アリルの新規変異は確認されず、他のドライバー変異が腫瘍あたり1個程度、野生型ラットでは2個程度確認された。これらの結果もBrca1野生型アリルの機能喪失を伴わないハプロ不全による発がんの機序を示唆しているが、さらにデータを得て確認する必要がある。ホルモン依存性の解析においては、これまでに得ている乳がんにおいてプロゲステロン受容体の免疫染色を行い、統計学的有意差はないものの、非照射のBrca1ヘテロ欠損ラットに発生した乳がんで陽性率が非常に低いものが多い傾向を見いだした。これは、昨年度のエストロゲン受容体の結果と総合し、ホルモン非依存性の機序の関与を示唆している。ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)については全般的に低発現であり、Brca1遺伝子型との関連は見られなかった。そこで、Brca1ハプロ不全が遺伝子発現に及ぼすその他の影響を調べるため、RNAシーケンシングによるトランスクリプトーム解析実験を各2検体で実施し、解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
R4年度計画であった、DNA二重鎖切断マーカー可視化検討実験、腫瘍及び正常組織におけるBrca1発現のアリル特異的定量、ラットBrca1関連乳がんのエクソーム解析を順調に進めたため。また、計画通りに乳がんにおけるプロゲステロン受容体解析及びHER2発現解析を進め、トランスクリプトーム解析にも着手したため。
今年度の予備的検討の結果に基づいて、遺伝子変異蓄積機序の解明及びトランスクリプトームレベルの機序の解明をゲノミクス及び分子マーカーの解析によって進める。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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